内容説明
「民主政治」と言いながら、現実の世界では、経済と政治のエリートたちが、選挙という形をとりながら、権力を独占している。そこでは社会の中心をなす経済が民主的なコントロール下で運営されず、また説明責任もない。その結果、我々の生活に直接関わってくる社会組織の大部分が民主政治の手の届かない場所にあるのだ。一方の「自由」は、今ではもっぱら経済的強者の自由を意味するようになった。オーウェルさながらのこの転意のおかげで、これら二つの言葉は、『歴史に残る誤用単語辞典』のなかでも特別な位置を占めることになった。この二つの言葉がもたらす毒によって、人道的な社会を築き、暴力を抑えるという私たちの文明に対する希望は混乱し、濁り、分解され、集合的記憶からほぼ完全に消し去られてしまった。これら二つの言葉に結びついていた希望が文明社会から失われてしまったために、今の私たちには現行の権力構造に取って代わるべき魅力的で人道的な代替案を政治的に表明するのが難しい。いやそれどころか、それらを考えることすら困難になってしまった。
目次
第1章 羊たちの沈黙は、なぜ続くのか?―重大な戦争犯罪と道徳的規律違反を国民の目から隠す方法
第2章 大衆を恐れる権力エリート―民主政治の管理のためのソフトパワー・テクニック
第3章 新自由主義の教化とは?―ネット誌「ナッハデンクザイテン」のインタビューに答えて
第4章 「土地を所有する者が、その土地を統治すべき」―民主政治を避ける手段としての代議制民主政治
第5章 マスメディアによる教化―イェンス・ヴェルニッケとの対話
第6章 「混乱した群れ」を操る方法―公共の議論の場の制限と異論の排除
第7章 幻想としての中道、カルテル政党、連邦議会選挙
第8章 人種差別、資本主義、そして「強欲支配人間たち」の価値共同体―マルコ・ユングヘーネルとの対話
第9章 民主政治と白色拷問―拷問の不可視化―心理学の貢献
付録 「コロナ危機」と新自由主義―「健康」は口実に過ぎない。支配エリートたちはコロナ危機を大衆操作と支配の強化のために利用している
著者等紹介
マウスフェルト,ライナー[マウスフェルト,ライナー] [Mausfeld,Rainer]
ドイツ、キール大学名誉教授。知覚と認知心理学が専門。政治・社会問題に関する研究を通じて、新自由主義イデオロギー、デモクラシー(民主政治)の権威主義統制国家制への転換、世論形成とショックドクトリンの心理操作の仕組みなどについての著作多数。講演活動にも注力しており、中でも『世論とデモクラシーはいかに操作されているか?』と『権力エリートは民衆を恐れている』は数十万人の聴衆を集めた
長谷川圭[ハセガワケイ]
高知大学卒業後、ドイツのイエナ大学でドイツ語と英語の文法理論を専攻し、1999年に修士号取得。同大学での講師職を経たあと、翻訳家および日本語教師として独立
鄭基成[チョンキソン]
上智大学言語学専攻博士課程単位取得退学、ルール大学ボーフム学術博士。茨城大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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