内容説明
グラック、幻の散文詩集。著者が私家版・限定63部で発表した知られざる佳品。硬質で燦めくような隠喩を散りばめた美文が、熱い情念と直截な愛に高揚する、世にも壮麗な絶唱12篇。
著者等紹介
グラック,ジュリアン[グラック,ジュリアン] [Gracq,Julien]
1910~2007。シュルレアリスムやドイツ・ロマン派に深く影響を受けたフランスの作家。処女小説『アルゴールの城にて』(1938)でアンドレ・ブルトンに激賞されデビュー。1951年の『シルトの岸辺』でゴンクール賞に選ばれたが、受賞を拒否した他、評論集『偏愛の文学』(1961)では、生の流動を遮断する文学の閉塞化、商業主義化を徹底して批判するなど、ブルトンの思想の流れを汲む反骨の作家として知られる
松本完治[マツモトカンジ]
仏文学者・生田耕作氏に師事し、大学在学中の1983年に文芸出版エディション・イレーヌを設立(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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コットン
72
表紙が箔押しで山下陽子のブルーグレーのしっとりとしたシュールな挿画が入った幻想的な散文の詩画集でスリムだけれど素敵な豪華本。2025/02/24
R子
15
散文詩12編を収録。山下陽子さんの挿画がぴったり。迷宮を彷徨う読み心地だった。同じ路を行きつ戻りつ何度も踏みしめ、美しい言葉の数々を堪能した。“君”への愛は深く、その陶酔と苦痛に眩暈を覚えた。真っ直ぐで激しい想いは、儚さも感じさせ忘れがたい。贅沢な読書時間だった。堀江敏幸さんの著作『彼女のいる背表紙』では、天沢退ニ郎訳で詩の冒頭部分を読むことができる。私家版のエピソードとともに、あわせて読むのも楽しい。2023/10/03
あ げ こ
12
不在より生まれ、不在より放たれる〈君〉を希求する言葉が、〈君〉を、或いはその存在そのものであるかのような世界を、愛を、より儚く、より美しく、より壮麗な、極致めいたところまで高めて行く。陽光と夜の闇、温かさと冷たさ、甘やかな快楽と激痛、充足と欠如、多幸感と孤独、呼びかけること、誘うこと、想起すること、欲望すること…ただ一つの方向からでは到底語り尽くすことが出来ないと言うかのように、絶えず移ろい行くものを、その移ろうさまを懸命に捉え続けようとするかのように、言葉はあらゆる角度から世界を、〈君〉を映し出す。2022/12/23
スミス市松
12
グラックが『シルトの岸辺』の執筆を中断していた時期に書かれたとされるきわめて直截的な熱情の高揚を叫んだ散文詩集。リフレインのたびに募る想いが光輝く隠喩を増幅させる。遠く離れた場所に恋人を残している人間が地球上にまだ一人でも存在する限り、このような詩は読み継がれていくべきだと思う。様々な異国の記憶を、あるいは『ヒロシマ・モナムール』などの作品を思い出していた。御空色とも勿忘草色ともいえるはかない青い印字、ドイツ装の造本、山下陽子の挿絵、そのすべてがグラックの隠された“絶唱”をこの上なく美しく際立たせている。2022/09/04
月音
4
異国の女とは何者だろう。男の狂おしい情熱は言葉の愛撫となって彼女に様々な姿を与えるが、不思議と具体的な像を結ばない。男の愛欲で変身する神話の女が、ふとこの世に紛れこんだかに思える。部屋部屋に、通りや街角、公園に散らばる平凡な日常、乾いたルールを朗らかな笑みが溶かしていく。彼女はキリストの愛のもとには跪かない。現実が異国の夢を覚ます。グラックは、意図して女の姿も声も曖昧なままにしておいたのか。読み手の想像が、彼女に日ごと新たな美を捧げられるように。2024/07/06
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