内容説明
源氏物語を勧善懲悪や戒律の議論から解き放ち、その本質を「物のあわれ」であると捉えた歴史的評論。その後の日本文学に与えた影響は計り知れない。『紫文要領』の最終稿とされる第一巻、二巻を訳出。源氏物語の入門書としても秀逸。
目次
源氏物語玉の小櫛一の巻(物語書の総論;この源氏の物語の作者;紫式部の事;執筆の動機;執筆の年代 ほか)
源氏物語玉の小櫛二の巻(さらに本旨;種々の趣意)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
72
玉鬘がわが運命を顧み、物語の虚実について考えていると、源氏は笑いながら半分真面目に《はかなしごととしりながら、いたづらに心うごき》、《よきもあしきもよにふる人の有りさまの、見るにもあかず、きくにもあまる事を》表すのが物語だと教える。この蛍の巻の物語談義こそ紫式部が自らの物語観を述べたものと考える宣長は、《よきもあしきも》を儒仏の善悪から切り離し、独自の「物のあはれ」論を説いている。悟りや治国のためではなく、ただ美しい蓮が咲くために泥水を必要とする…この喩えは、源氏物語の恋にとってまことにふさわしいと思う。2018/07/01
双海(ふたみ)
12
源氏物語を勧善懲悪や戒律の議論から解き放ち、その本質を「物のあわれ」であると捉えた歴史的評論。その後の日本文学に与えた影響は計り知れない。『紫文要領』の最終稿とされる第一巻、二巻を訳出。源氏物語の入門書としても秀逸。 (本書紹介より)2014/07/04
maekoo
8
源氏物語研究の上で必ず通過する紫文要領の改訂版たる「玉の小櫛」現代語訳本。 宣長の古典愛と源氏物語への敬意が溢れた名著をすらすらと読める幸せ! 蛍巻の評論等に訳者が通し番号を付けて下さっている部分もあり大変読み易く、主論である「もののあわれ」を含む「よしあしき」論、俊成の「恋せずは・・・」の和歌に表された恋による人の心の奥深さ、仏教の道理でなく儚さやあわれを描いた物語造形、人間模様や自然描写等をこの「もののあわれ」論で展開しています。 現代でも多大な影響を与えている源氏物語を読み解く上で重要な論文集です。2022/11/10
kinaba
2
あはれ、すなわち、いかな意味であれ心を動かすことをもってよしとするのが源氏物語の主軸という論をつらぬき、衒学めかし説教めかした低俗な議論を切っていく評論。現代に蘇って今時の文学も論じて欲しくなる。心を動かすことだけに一念込めた文学、もっと論じられてほしい2017/12/04
なめこ
2
そのうち原文でも読まなければいけないのだが、かなりくどくどと源氏物語を引きながら「物のあはれ」とはなんぞやということが語られている。この「あはれ」という感覚は厄介で、現代のわれわれのものの感じ方の多くがまだこの「あはれ」に縛られているような気がする。そして、冗長で女々しくもおもわれる人物の心情描写などが漢文と対比されるなかで価値を肯定されるメカニズムの一端をみた。2016/04/22