出版社内容情報
業火の記憶は浄化の記録となった
その写真を個展会場で目にした私は、原爆ドームが悲惨な記憶の廃墟から、希望のシンボルへと昇華した神秘的な瞬間に立ち会ったような興奮を禁じ得なかった。
背景に霞む原爆ドームを前に、異国のカップルが抱擁し唇を重ねている写真……。
だれもが息をのんだはずだ、カメラがとらえたその“不謹慎”な構図に。そんなとまどいをあっけらかんとぬぐい去ってしまった写真のチカラに。
原爆ドームという聖地を前にして、かつてこれほど“不謹慎”な写真を撮ったものがいただろうか。こんなピースフルな魂が出現したことがあっただろうか。ずっとずっと、この神聖な場所では“不謹慎”はゆるされなかった。だから“不謹慎”という観念の呪縛から、されもが逃れられないできた。
祈り、ねがい、抗議……。あらゆる表現をこころみてきただれもが、しらずしらずに“謹慎”という桎梏に縛られつづけてきたのだ。
その呪縛からやすやすとぬけ出てしまったのが、あの一枚の写真だった。
堀 治喜
(本書まえがきより)
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- 和書
- 堤中納言 - 影印本



