出版社内容情報
《内容》 本書は、日本精神病院協会の研究事業の一つである痴呆性老人に対する作業療法の3年間の実践を、そこから得られた数々の成果を多くの介護者が共有できるようにとまとめた、実践に即したわかりやすい実用書です。 第1章には、そもそも作業療法とは、痴呆とは何なのか、痴呆の老人に作業療法を用いることでどのような効果が期待できるのかなど、痴呆性老人に対する作業療法を理解するために必要なことがまとめられています。 作業療法が生まれてきた経緯や、作業療法における人間理解の考え方を知ると、痴呆性老人に対する作業療法の可能性が無限に広がっていくことが理解できます。 また、「痴呆性老人を理解するために」の項では、老化による生理的老化と病的な痴呆の違い、代表的な痴呆、すなわち脳血管性痴呆とアルツハイマー型痴呆の特徴などについて簡潔に解説されており、痴呆性老人に接するための予備知識が得られます。 「各機能に対する作業療法の可能性」では、心身機能に対して、あるいは認知機能に対して、どの作業がどのように働きかけるのかを解説しています。安全性を確保するための注意点、万が一の事故に対する対処方法なども掲載されています。 第2章は、実際に作業療法を行うための手引きで、その内容は、 治療のねらい、 対象重症度、 対象人数・所要時間、 場所、 用意する道具、 手順、 進行上のポイント、 注意と介助のポイント、 評価と対応の方法 などが詳細に書かれています。 作業療法が真に療法であるためには、その作業を行った結果、その老人にどのような変化がみられたのか、楽しそうだったのか、いやいやだったのか、身体の動きはどうだったのか、その後の生活に変化はみられるのかなどの点を評価して、次の対応につなげていかなければなりません。そのためのポイントもふんだんに記されています。 この第2章は、 「音楽」 「健康」 「ゲーム」 「手工芸」 「生活」 「会話」 の6項目で構成されており、集団の活動のみならず、在宅でも作業療法が取り入れられるように工夫されています。 音楽の項には、ハンドベルなどの器楽演奏や歌うことが取り上げられており、 健康には、肩たたき、竹踏み、散歩など、日常生活に取り入れられるものも数多く、たとえば肩たたきでは肩をたたく強さの加減ができているかどうかなど、実践から生まれた手引書ならではの注意点も書かれています。 また、人間が行うすべての動作において必要とされる身体のねじれを引き出す方法や、麻痺のある人でも集団に参加できるようにするための工夫なども書かれています。 ゲームには、重度の痴呆をもった老人でも参加可能なものから痴呆のない人でも十分楽しめるものまで15種のプログラムが掲載されており、 どのあたりを工夫すれば対象重症度が変えられるか、 あるいはどのような促し方が痴呆性老人の関心にはたらきかけるかなど、実践におけるヒントが詰まっています。 手工芸には、 刺し子やちぎり絵、はんこ絵などが掲載されています。 記憶力の低下や失見当によって不安で落ちつかない毎日を過ごしている痴呆性老人にとって、 取り組めることがあることは安心感につながります。また、出来上がった作品には、 その人の健康な部分、残されている能力を物語り、周囲とのコミュニケーションのきっかけをも生み出します。 生活の項目は、「現在できること」 をするということが、 まさに作業療法であることを教えてくれます。 とくに女性老人にとって、洗濯物たたみなど家事にかかわる作業をすることはその人らしさを取り戻す手がかりになることがあります。また、日常生活のなかに自分の役割を見出すことで、生き生きと過ごせるようになることもあります。 家事になじめない男性老人に対してもそうした効果をねらうために、事務仕事についても掲載されています。 また「昔とった杵柄」という項目もあり、本書では、書道、囲碁・将棋、お花について介助のポイントなどが述べられていますが、その人の生活歴から「昔とった杵柄」的作業を見つけだすことの重要性が指摘されています。 会話の項目には、グループで行われる現実検討といわれる会話プログラムの手順や、昔話を引き出す効果的な方法、茶話会の進め方などが述べられています。痴呆性老人に対する現実検討は何を目標にして行われるべきなのか、どのようなことはしないほうがよいのかなど、実際の場面での疑問にも答えています。 第3章は、用語解説と老人性痴呆疾患センターなどリストと参考文献からなる資料集です。 なかでも300語に及ぶ用語解説には医学的な用語もわかりやすく解説されており、たいへん役立つ巻末資料となっています。 作業療法を実践しようという際の手引書として、また、痴呆性老人にかかわるすべての方々に、ぜひとも読んでいただき、利用していただきたい、おすすめの1冊です。 《目次》 痴呆性老人のための作業療法の手引き--目次・はじめに・第1章 作業療法の理解 I.作業療法の考え方 ○作業療法の基本概念/作業療法の現状 II.痴呆性老人を理解するために ○痴呆とは/痴呆性老人の一般的特徴/痴呆の原因/代表的な痴呆疾患の特徴/治療とケア III.痴呆性老人に対する作業療法の意味 ○在宅の痴呆性老人を抱える方へ IV.各機能に対する作業療法の可能性 ○心身機能に対して/認知機能に対して/身体機能に対して/日常生活動作に対して/社会性に対して /異常行動に対して V.処遇の考え方 VI.評価の考え方 VII.安全性を確保するために ○事故防止のために/事故への対応・第3章 作業療法の実際 I.音楽 ○ハンドベル/リズムバンド/歌う II.健康 ○いす体操/歌体操/肩たたき/竹踏み/盆踊り/お手玉/ハンドゲーム/散歩 III.ゲーム ○輪投げ/輪受け/キャッチボール/ターゲットゲーム/ベンチサッカー/ボール蹴り/フラフープ転がし ボール送り/紅白玉入れ/風船バレー/空き缶ボーリング/魚釣り/ジャンケン椅子取り/福笑い かるた・絵カード探し/ IV.手工芸 ○お針/編み物/藍染め/ちぎり絵/ちぎり和紙細工/はんこ絵/ぬり絵 V.生活 ○庭仕事/家事/事務仕事/昔とった杵柄 VI.会話 ○昔話/グループ会話/茶話会・第3章 資料 I.用語解説 II.老人性痴呆疾患センター III.日本精神病院協会関連施設 IV.参考文献