出版社内容情報
《内容》 現在、わが国の痴呆性老人は、以前からある精神科病棟、特別養護老人ホーム、一般老人病院に加えて、老人性痴呆疾患治療病棟、老人性痴呆疾患デイ・ケア施設、老人性痴呆疾患センター、老人性痴呆疾患療養病棟、老人保健施設痴呆専門棟など、多種多様な施設でかかわりがもたれています。在宅でのかかわりも含め、痴呆性老人をめぐる問題も多様化してきています。 初期には、高齢化先進国、とくに北欧諸国の制度や考え方に習うところが大きかった痴呆性老人への対応も、我が国での経験が重ねられるにつれ、わが国の文化、社会、国民性などによりよく適合した方法が見出され、よりよい対応がなされるようになってきているといえるでしょう。 本書は、そのような、わが国において体験され、発見された痴呆性老人の特質とその人たちへの接し方を、痴呆性老人が生活する現場での豊富な経験に基づいて、率直でわかりやすい言葉で語られた、痴呆性老人ガイドブックです。 本書の構成は、下記の3つの部分に大別されます。 第1、2章 : 通常の高齢者と老年期痴呆患者の心理あるいは精神機能の一般的特徴についての解説。 第3、4、5章 : 痴呆患者にみられる異常心理や精神症状と、それらへの対処法、介護や援助のあり方、ケアプランの立て方など、痴呆性老人のもつ種々の問題への具体的対応法。 第6章 : 知能テストを中心に臨床でよく用いられる心理テストおよび精神機能評価尺度などの特徴と使い方の解説。 すでに老人性痴呆、あるいは痴呆性老人に関する解説書は多数出版されていますが、にもかかわらず、痴呆性老人のお世話をする現場では、容易に対応できない問題が毎日生じています。日常の看護や介護のなかで遭遇するむずかしい問題に対する具体的な解決法や解決のヒントは、実践のなかにしかありません。痴呆性老人のお世話をするなかで発生してくる問題への正解は、しばしば、常識を超えるもので、頭で考えた想像や推測では決して得られないのです。 そのような意味で、本書は、著者らの実践で得られた体験に基づく活きた言葉で書かれているところに、大きな意義があります。本書を読めば痴呆性老人への対応のすべてがわかるとか、すべての難問が解決するというものではありませんが、この領域でわが国でもとりわけ豊富な臨床経験をもち、優れた研究成果をあげている著者らによって書かれた本書は、痴呆性老人にかかわりをもつ多くの人にとって、役立つものであり、また励ましにもなることと思います。 《目次》 痴呆性老人の心理と対応 --目次・まえがき・第1章 正常加齢にみられる老年期の心理 I.老年期にみられる心身の変化 長寿と老化 老いの自覚と老いの受入れ II.初老期、老年期にみられる心理特性 初老期にみられる心理特性 老年期にみられる心理特性・第2章 初老期および老年期痴呆にみられる一般的特性 I.初老期および老年期にみられる痴呆の診断基準と種類 痴呆とは 初老期および老年期痴呆の種類 痴呆性老人の有病率とその数 老年期痴呆の治療と働きかけ II.初老期および老年期痴呆にみられる知的機能障害と日常生活機能の障害 知的機能障害と日常生活機能の障害 1)知的機能障害 2)日常生活機能の障害 痴呆の経過 III.初老期および老年期痴呆にみられる感情障害と意欲障害 感情の障害 意欲の障害 IV.初老期および老年期痴呆にみられる性格変化・第3章 初老期および老年期痴呆にみられる異常心理とその対応 I.痴呆の経過と随伴精神症状・異常行動 精神症状や異常行動がみられるのはどのような場合か 精神症状を呈する痴呆性老人の心理的背景 II.種々の精神症状や異常行動への対応 抑うつ状態 1)痴呆にみられる抑うつ状態の特徴 2)抑うつ状態への対応 心気症状 1)痴呆の初期にみられやすい心気的訴え 2)心気症状への対応 妄想 1)被害妄想;とくに物盗られ妄想とその対応 2)嫉妬妄想;夫婦間の嫉妬妄想とその対応 せん妄 1)せん妄のタイプと経過 2)せん妄への対応 幻覚 睡眠障害・昼夜逆転 徘徊 失禁と不潔行為 1)脳血管性痴呆による失禁の特徴とその対応 2)アルツハイマー型痴呆による失禁の特徴とその対応 3)施設における失禁対策の試み 大声・興奮・暴力行為など その他の異常行動と危険な行為とその対応・第4章 痴呆性老人の介護はどこでどのようにされるのが望ましいか I.在宅介護への援助 在宅介護はどこまで可能か 在宅介護で老人をみている家族の心理と老人への思い 在宅介護への援助はどこに重点をおいたらよいか 家族への援助 痴呆性老人のターミナルケア II.施設での痴呆性老人への対応と援助のあり方 入所施設での対応と援助のあり方 1)痴呆専用施設と混合処遇施設での介護上の問題 2)対応の仕方で穏やかになっていく痴呆性老人 3)施設でつくられる新しい家族関係 4)施設での対応がむずかしい例 5)医療とのかかわりをどうするか 長い経過とその後に訪れる寝たきりの状態にどう対応するか 1)痴呆の末期には寝たきりの状態が合併する 2)施設におけるターミナルケアをどうしたらよいか III.痴呆性老人の人権 痴呆性老人の意思決定はどこまで可能か 1)財産の事故管理ができなくなったとき 2)住む場所の選択や遺言に老人の意思尊重はどこまで可能か 老人虐待をどう防ぐか 1)在宅介護における老人虐待 2)施設介護における老人虐待 3)介護者の人権を考える・第5章 痴呆性老人のケアプランのたて方 I.老人をどうとらえるか 高齢者アセスメント表:Minimum Data Set(MDS) II.問題点はなにか III.なにを大切にして対応するか IV.どのような支援をするか・第6章 老年期の心理テスト I.知能テスト ウェクスラー成人知能検査改訂版(WAIS-R) コース立方体組合せテスト II.老人用知能テスト 1)全身状態・意識状態 2)知覚機能 3)疲労 4)気分・検査に対する姿勢 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R) 国立精研式痴呆スクリーニング・テスト Mini-Mental-State(MMS) N式精神機能検査 III.臨床観察による評価法 柄澤式「老人知能の臨床的判定基準」 Functional Assessment Staging(FAST) Clinical Dementia Rating(CDR) GBSスケール NMスケールおよびN-ADL 1)NMスケール(N式老年者精神状態評価尺度) 2)N-ADL(N式老年者日常生活動作能力評価尺度) IV.性格テスト 1)質問紙法の性格テスト 2)投影法の性格テスト Zung's self rating depression scale(SDS) Hamilton rating scale for depression(HRS) ロールシャッハ・テスト Thematic Apperception Test(TAT) バウムテスト・索引・あとがき