内容説明
こんな子が欲しかったんじゃない。ブッカー賞受賞作家が描く正統幻想の行方。立派な跡継ぎとなる男の子を望んでいた精神科医のアリスタにダウン症の女の子が生まれる。失望のあまり、子供が5歳の誕生日を迎えるまでに成長してもなお、その顔を見ることができない。アリスタの結論は、子供のお遊戯会の日に出された。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
白のヒメ
54
文中の言葉「最高の復讐は立派に生きる事である」ポルトガルの格言らしい。非常に心打たれた。・・・コンプレックスや障害というのは、それを知らない傍の人間が当の人物に対してどうのこうの言える問題ではなく、それは親子だって同じこと。人間が抱える悩みというのは、結局本人以外が理解しようとしても理解しえないし、乗り越えるのは本人以外無いのだけれど、幼くしてそのコンプレックスを乗り越える機会を、その親が潰してしまったとしたらそれは親の重大な罪だ。残念としか言いようがない。それは愛とは、決して言えない。2015/10/06
らびぞう
8
精神科医のアリスタ・クラウンに、子どもが生まれた。まず、その知らせを受けて、病院に向かう時からの描写に、引く。墓場を通り抜けながら、そこに供えている花を引っこ抜く。そうして、その花に添えられていたカードから、その女の子は、ドリスと名付けられた。生まれながらに、父親アリスタから愛されないドリス。何故なら、ドリスは、ダウン症だったから。お誕生会にも、参加せず、自分の両親にも、告げず。しかし、彼女の顔から下は、愛するアリスタ。「そこに愛はあるんか?」と問い正したい。2021/05/30
よし
6
米原万里 推薦のー冊。題から不気味で読むのに抵抗があった。書き出しの墓場から花を盗んでいくシーンにもう止めたくなった程。何でこんなに暗く息がつまる物語なのか!主人公のあまりにも自己中心的で、愛なき不毛さに怒りさえ‥抱いていたのに。読み進めていくにつれ、段々と彼に同情さえ寄せていった。なんで作者はこんな物語りが書けたのか?「心に巣くう暗黒部分を見すえる作者の透徹した眼」は? ラストは,想像を絶する「人間の業の深さ、凄惨さ」に 打ちひしがれてしまった。2015/01/20
gurrengurren
3
精神を形成してきた環境によるところも大きいのだろうが、父親のマジョリティに見られる、成熟への希薄な意思が引き起こした大罪。殺す権利、生きる権利がどうこうと、とやかく咎めるつもりはないが、一言だけ、放っておいて欲しかった。別に成熟しなくてよい、よいパパにならなくてよい、救われなくてよい。ただほっとけよ、と。母親の包容力が十二分及んでいたのだから、多様性を認めるだけに留まっていてくれれば御の字だった。加えて、いつの間にか免罪され、見せしめとしての抑止力が何も機能していないところも、新年早々何だかな~。2016/01/01
きたくり
3
「異常心理を読む15冊 春日武彦選~『こころの中の深い森』巻末」で知った本。読んでいて中盤あたりから、何なんだこの主人公は!?と思い始めたんだけど、読み終わった時、特に最後の2ページで、ズドーンと重い悲しみに心が覆われた。そういえば原題は“A Solitary Grief”。この作者は凄い・・と思った。お涙頂戴的な語りとは正反対の、冷徹に進んでいく語りがかえって読む人それぞれにいろんなことを考えさせるのかもしれないとも思った。2014/10/22
-
- 和書
- 我が人生下り坂