内容説明
フェミニズムに画期をもたらし、“ケアの倫理”の原点とされる名著の増補版を完訳。女性の道徳発達を低く見積もってきた、主流派心理学の男性中心主義を剔抉、「目の前の苦しみを和らげよ、誰ひとり取り残されてはならない」と命じる“ケアの倫理”の声を聴き取る。
目次
第1章 人間/男性のライフサイクルにおける女性の位置
第2章 関係性の複数のイメージ
第3章 自己と道徳性の概念
第4章 危機と移行
第5章 女性の権利と女性の判断
第6章 成熟の姿
著者等紹介
川本隆史[カワモトタカシ]
1951年広島市生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程(倫理学専攻)修了。博士(文学)。東京大学および東北大学名誉教授
山辺恵理子[ヤマベエリコ]
1984年東京都生まれ、米国NY州育ち。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。都留文科大学国際教育学科准教授
米典子[ヨネノリコ]
東京大学大学院教育学研究科博士課程を単位取得満期退学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ネギっ子gen
59
【関係性こそが、人生を生き抜き、幸せを成就する鍵だ】「目の前の苦しみを和らげよ、誰ひとり取り残されてはならない」と、女性の道徳発達を低く見積もった主流派心理学の男性中心主義から剔抉した名著の増補新訳。原書は1993年に、新訳は2022年刊。<今や再び家父長制が息を吹き返し、デモクラシーが危機に晒されています。/私たちは今、ケアの欠如と無関心の代償の大きさをかつてないほど強く自覚しながら生きています。愛とデモクラティックな市民としての暮らしにとっての必要条件は、まったく同一の事象を指し示しています>と――⇒2025/01/23
koke
12
従来の道徳観の発達が男性中心の視点となっていたことを問題として、女性の中絶についての意識決定の過程についてのインタビュー等をもとに分析を行います。導き出されたのは、男性性的な”正義の倫理”と女性性的な”ケアの倫理”の対位とその統合による道徳の発達というアイデアです。内容は十分に理解できないところもありましたが、面白い内容でした。解題にあるように、フェミニズムの主張の一筋縄ではいかなさ、みたいな背景が少しわかります。2024/07/24
にたいも
9
「女子たちや女性たちに目を向け、話を聞く新しい心理学の理論は、女性たちの経験を覆い隠し続けることによってのみ権勢を保ち続けられる家父長的秩序に対する、必然的な挑戦状を突きつけます。」(p.41「1993年、読者への書簡」)/フロイト、ピアジェ、エリクソン、コールバーグら心理学の発達理論は男性についての研究で、(様相が異なるだけにも関わらず)女性の発達を低く見積もった。これに対し、ギリガンは女性たちへのインタビュー調査を基に道徳性の発達の研究を著した。「ケアの倫理」の出発点となった著作(1982)。2024/02/11
ひつまぶし
6
正義の倫理とケアの倫理、男性の倫理と女性の倫理という対比になるのかと思ったが、両方に共通のものとして、最終的には複数の倫理の存在を示唆する展開となっている。先行する発達心理学が男性を前提とするモデルで、女性の発達の「遅れ」と見てしまう点を、理論的に批判しつつ「もうひとつの声」を発見していく展開の革新的な面白さがある。しかし、この議論にかかっているバイアスはそんなものでは済まないだろう。解題にあるような「二重の戦略」のジレンマもある。正攻法ではなく、ブラックボックスを扱うことを前提とした思考が求められる。2023/12/08
ちり
4
“女性が自身を「無私無欲」な存在にしてしまうことー自分の声など存在しないかのように立ち振る舞うことーは、自分や他者と向き合うことではなく、むしろさまざまな関係性から身を引くことを意味しました。私が(当時)目撃したラディカルな転換は、次のような女性の気づきを表しています。すなわち、自身がケアと気遣いを向ける活動範囲に他者だけでなく自分自身を包摂することは「身勝手」な行為ではなく、むしろそれこそがケアの行為なのだという気づきです”2023/11/06
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