内容説明
この物語は、多感な少女の記憶のひだに刻まれた戦中戦後を、清廉な目を通して語り部のように復活させている。舞台は京都清水寺の裏手にあった「清閑荘」と呼ばれた不思議な構えのアパートである。このアパートに住む住民たちの生活ぶりは、軍国主義の色にぬりこめられながら次第にハルピンや外地からの引揚者が目に立つようになる。風変わりなロシア文学者尾瀬敬止がいつも特高に見張られていた様子をはじめ、薄れゆく記憶の原風景を、たんなる思い出ではなく、戦争と敗戦という日本人たちの秘めた琴線を庶民的な詩心でかきならす。