内容説明
「本当の幸せ」を探し求める平成の若者たち、そのマスターキーは「恋愛」。「ことば」の名探偵が、Jポップの歌詞から解きあかす「恋愛」をめぐるレトリックのトリック。
目次
イントロ 愛が止まらない―恋するJポップ
Aメロ 愛さずにはいられない―平成=紋切型の時代
Bメロ ね~え?―平成の若者たちの「こころもとなさ」
間奏 あなたがいるから―平成の恋愛の言説
Cメロ 愛が見えない―平成の憂鬱
サビ 幸せについて本気出して考えてみた―幸福から充実へ
著者等紹介
難波江和英[ナバエカズヒデ]
1953年生まれ。クイーンズランド大学(豪州)聴講生を経て、関西学院大学文学部英文学科卒。同大学院博士課程後期課程満期退学。アイオワ大学(米国)大学院修士課程修了(フルブライト全額支給、英米文学)。現在、神戸女学院大学文学部総合文化学科教授(文化学・英米文学)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Ecriture
10
流行歌における恋愛の歌の比率は明治時代には7%に過ぎなかったが、1990年代になるとその数字は97%に達した。そのような恋する時代に、HMVやヴァージンメガストアのような外資系の大型レコード店では洋楽と邦楽を分類するために「Jポップ」なる呼称を生み出した。他者と出会うことなく自覚的に自意識の檻でMr. myselfと戯れるミスチル、歌全体の感情移入を回避して数秒間に圧縮された語句レベルの感情移入を図った小室哲哉など各論も充実しているが、70年代の井上陽水や吉田拓郎からのジェンダー観の変遷を辿る試みも良い。2014/10/23
aoneko
10
『街場の読書論』で紹介されていて、気になってた本。Jポップの歌詞には「他者」が存在しない、という指摘から、その構造的な貧しさを解析しながら、丁寧に取り出していく。一応、恋愛という制度に飼い殺しにされないですこやかに生きていく方法…とのことだけど、渾身の思いを注ぎ込むように書かれた論考はどれも心に響いた。ただ、ミスチル好きな人が読んだらどう思うんだろ、積んだままのレヴィナスはいつ読むんだろ>自分 ってことは、気になってる。 2014/09/12
Yukicks
9
内田樹先生の書評からめぐって読了。http://blog.tatsuru.com/archives/000457.php 「私」を名詞として捉えるのではなく動詞として捉える。社会や他人などの「他者」と衝突して関わることで私らしさが屹立し、エネルギーとなるってことでしょうか・・・ 安易な幸福を求めて、弱い自分を「自分らしさ」として愛でるという我欲的ループは消費社会的にはいいのだろうが(「自分探し」や「幸せ探し」も同じ)、承認不安がより強く強く延々と続くということか。 2012/12/13
タイコウチ
3
近田春夫が「考えるヒット」でちらつかせていたJポップの作詞術に対する苛立ちに対して、〈恋愛〉をキーワードとして歌詞を分析し、批評理論の視点から形を与えようという試み。論のために都合のいい例を引いてくるという恣意性から完全に逃れることはできないが、浮き彫りにされる現代の貧困な恋愛観には暗澹とさせられる。若い世代にはもっと多様な価値観に触れてほしいと思うこと自体、単に自分が年を取った証拠にすぎないのであればいいのだが。俎上にのぼる歌は10年くらい前までのものだが、残念ながらこの本の論点はいまだに有効だと思う。2012/05/06
URYY
2
題名の〈軽さ〉に反して、きめ細かい歌詞=言葉分析。承認不安のループのなかで求められる〈恋愛〉は、逃げ場にすらならない。むしろ、それはより強く、承認不安をひきおこすものだ。あああ、救いがないなあ、という気分になる。承認不安を規定しているのは明らかに消費社会の機制だが、その点にまで踏み込んだものを読みたかったなあ、とは思う。2012/07/01