内容説明
氷点下30度を超える冬、緑滴る夏―アルタイの大地。小さな雑貨店は、遊牧民たちにとって夢の百貨店だった。魯迅文学賞受賞作家・李娟の若き日の作品集。
著者等紹介
李娟[リージュエン]
作家。1979年、中国新疆生まれ。1999年頃から、新疆北部のアルタイ遊牧地域で、母親が営む雑貨店を手伝いながら散文を書き始め、「南方週末(Southern Weekly)」紙などにコラムを持つようになる。2018年、『遙遠的向日葵地』で中国文学における最高栄誉の魯迅文学賞を受賞。他にも上海文学賞、人民文学賞、第2回朱自清散文賞など、多くの文学賞を受賞している
河崎みゆき[カワサキミユキ]
國學院大學大学院非常勤講師。専門は日中対照言語研究および社会言語学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遠い日
6
李娟の自然で、素朴で温かい文体が大好きだ。ゆっくり語られることばの端々に滲むユーモア。厳しい暮らしを描きながら、そこここに感じられる充実感。このお母さんもおばあさんも、大陸的で突拍子もない行動をするがどうにも憎めない。アルタイ地方のあちこちを移動しながら、人々と交わり、遊牧民と駆け引きしつつ、生きること、人としての心根を感じ取っていく。貧しさはここでは生きる枷にはならない。身の丈の暮らしこそ、幸せ。地道に、実直に生きる大らかな人々に、あるべき姿を見た思いがする。2022/08/23
いっこ
6
著者の母親は漢民族出身だが、アルタイ遊牧地域で雑貨店兼裁縫店を営んでいた。遊牧民のくらしに必要な物を売るだけではなく、人々のささやかな夢を叶える店でもあった。読んでいるとこのあたりの自然を見たくなる。ネットで写真を見ると、空や湖、川の鮮烈な青さ、砂漠の広がり、山々の白い雪に目を奪われる。真っ暗な夜、凍える冬と引き換えだ。人間だけではなく、たくましいウサギや怖そうな犬にも丁寧に向き合う著者とその母親に惹かれた。2022/03/15
風鈴
5
中国アルタイの遊牧地の洋服店兼雑貨店にやってくる人々や自然、生活を綴った物語。昔見たNHKの遊牧民のドキュメンタリーを思い出す。自然表現が瑞々しくてこの地に住む著者だからこそこの感性が磨かれたのだなと。冬は零下30度、電気、水道、トイレなしの厳しい生活、私は到底暮らせそうもない。特に女性、子供達が逞しい!年長児は年下の子の世話を当たり前にする。母の動物の躾け方がユニークで、又お婆さんの世話を娘に押し付る狡さに笑ってしまう。彼女達に仕立てを依頼する女性客の思いを受け止め作る服はとても大切な一品だ。2022/01/17
timeturner
4
想像したことすらないような暮らしが淡々と描かれ、日本ではバブルの真っ最中に、こんなふうに生きる人々がいたんだなあと軽い衝撃を受けた。貧しいという言葉では片づけられない、生きることに関する考え方が全く違う世界だ。広大な砂漠に囲まれた世界ならではなのだろう。つたない文章は貧しく教育のない娘らしいと言えなくもないが、繊細な描写やほのかなユーモアがもっと伝わる表現ならより味わい深かっただろうと思う。2022/05/15
hydrangea
2
文体が瑞々しくて、可愛らしくて、しかしながら雄大過ぎる自然や、厳し過ぎる人々の生活はきっちり正確に描かれている。女系家族なのだろうか、お母さんのキャラが立っているが、おばあさんも生きることの達人ぽいし、妹も働き者で愛すべき存在。なんだかずっと昔の話のようだけど、著者は1979年生まれ。現在でもこのような暮らし方をしている人々がいるのかと思うと、地球上で暮らす人間の多様性に感じ入る。2022/12/11