出版社内容情報
日本軍事史の名著を新装版で刊行。「軍事史は、戦争を再発させないためにこそ究明される」(著者「まえがき」)と、平和のために戦前・戦後の日本軍事史を体系的に解明した唯一の本。
戦後篇は2007年2月刊行予定。
まえがき 11
第一章 武士団の解体と近代兵制の輸入 15
一 封建軍備の無力化 15
二 幕府諸藩の兵制改革 22
三 維新内乱の軍事的意義 33
第二章 徴兵制の採用と中央兵力の整備 43
一 武士団の解体と中央兵力の創出 43
二 徴兵制の採用とその矛盾 54
三 西南戦争と近代軍隊の確立 61
第三章 天皇制軍隊の成立 75
一 対内的軍備から対外的軍備へ 75
二 徴兵令の改正 93
三 一八八六~八九年の兵制改革 101
第四章 日清戦争 117
一 海軍力の整備と戦争準備 117
二 戦争の経過と決算 121
三 軍事技術の発展 133
第五章 日露戦争 141
一 戦争準備 141
二 戦争の経過 147
三 戦争の勝敗の原因 156
第六章 帝国主義軍隊への変化 169
一 日露戦争後の典範令改正とその意義 169
二 帝国主義下の軍隊とその矛盾 178
三 軍部と政治 185
四 陸海軍備の拡張 195
五 大戦参加とシベリア出兵 203
第七章 総力戦段階とその諸矛盾 213
一 第一次大戦の影響 213
二 軍縮とその意義 219
三 総力戦体制の整備とその矛盾 228
四 軍隊の性格と構造の変化 234
第八章 満州事変 243
一 中国侵略への衝動 243
二 軍部内の革新運動 249
三 満州事変 258
四 軍備の拡張と軍隊の矛盾 269
第九章 日中戦争 275
一 ファシズム体制の確立と軍部の役割 275
二 日中戦争の開始 287
三 軍隊の拡大と変質 308
第一〇章 太平洋戦争 315
一 対米英開戦 315
二 初期の戦局と問題点 324
三 戦局の転換 329
四 戦線の崩壊 338
五 敗戦の軍事的原因 352
明治維新以来一二〇年間の近代日本の歴史は、ひたすら軍事国家としての発展をめざした前半の八〇年間と、平和国家を国是とした後半の四〇年間とに分けられる。前半の八〇年間は、軍国主義強国への道をひたすらすすんだ。明治維新後の国家建設の中心スローガンは「富国強兵」であり、天皇に忠誠をつくす精強な軍隊をつくり上げるという目的のために、政治も、経済も、教育や思想・文化までもが動員された。その結果が、世界に比類のない軍国主義国家を成立させることになったのである。(略)
絶え間ない戦争のくりかえしによって領土は拡大し、急速に経済も成長して近代国家として発展した。しかしそれはまさに「軍事大国」への道であった。日清戦争以来第二次大戦の終わる日まで、臨時軍事費という名の直接の戦費の支出されなかった年はなかった。経済は軍需に依存し、戦争のたびごとに成長する軍事経済であった。すべての国民は、何よりも天皇の忠良な臣民となることを求められ、国民教育によって男は兵士となって死ぬことを、女は軍国の母、妻として、息子や夫を戦争に送り出すことを求められ、その死に涙をみせることさえ許されなかったのである。(略)
一九四五年は、日本の歴史にとって、明治維新以上の大きな変換期であったといえよう。戦争の痛切な体験の上に立って、日本国民ははじめて軍国主義と戦争に決別し、平和国家として生きることを宣言したからである。だが平和国家をめざす憲法の存在にもかかわらず、わずか五年で再軍備がはじまり、その後の三五年間に軍事力の増強は着実に進んでいった。敗戦後アメリカの単独占領下におかれ、講和後も対立世界の一方の側と軍事同盟関係を結ぶことによって、いやおうなしに軍事化の道を歩まされているのである。(略)
戦前の軍事の歴史の教訓が、果して戦後の日本に生かされているのだろうか。(略)
戦争に参加した者としての反省をふくめて、私が政治史の一側面としての軍事史を学びはじめてから、すでに四〇年が経った。しかし軍国主義を批判し戦争を根絶するために軍事史研究を役立てたいという私の願いは、残念ながらまだまったく実現しないでいる。(略)
こうした状況がすすんでいるのをみると、軍事史を研究することの意義は決して失われ(略)本書も、この時代の中で軍国日本の再現を防ぎ平和を求めるために、いくらかでも役立つことができれば幸いである。
感想・レビュー
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