内容説明
記憶と鎮魂のファミリー・ヒストリー。第2次世界大戦をきっかけにドイツからカナダへ移住した家族を描く連作短編集。静かで平和に見える一族の生と死が詩情豊かに語られる。点景としてのオリンピック、断片としての家族の歴史。
著者等紹介
ボック,デニス[ボック,デニス] [Bock,Dennis]
1964年生まれのドイツ系カナダ人作家。オンタリオ州オークヴィル出身。ウェスタン・オンタリオ大学で英文学と哲学を専攻、卒業後さらに5年間マドリードで暮らす。現在、トロント大学などで文芸創作を教えるかたわら、作品を発表している。本作Olympiaはデビュー作で、Danuta Gleed Literary Award、Betty Trask Awardなどを受賞した。第二作The Ash Garden(2001年、『灰の庭』小川高義訳、河出書房新社、2003年)はカナダ日本文学賞を受賞
越前敏弥[エチゼントシヤ]
1961年生まれ。文芸翻訳者(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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buchipanda3
107
人は流れていくものに無力だ。水、風、そして時間。それでも生きている実感を得るためか、それらに触れようとする。抗うのではなく、ただ感じるために。端然としながらも素の情愛の籠もった語りが紡ぐ家族の年譜に感じ入った。それは特別な家族の姿ではない。フィルムは唐突の深い悲しみや離れた大地と新たな故郷の姿を映す。併走するように理念と対極の出来事と共に祭典がTVから垣間見える。無力な姿だろうか。でも時に思わぬ光景が心を支えることもある。流れには抗えない。でも思慕を胸に抱き続けることは出来る。ハートに矢が刺さったように。2024/02/17
ヘラジカ
54
なんて美しい小説だろう。この魂を揺さぶられるような作品が20年以上も翻訳されず、それどころか七社からも断られただなんて到底信じられない。長い年月を経ても邦訳出版を諦めなかった訳者の強い思いは訳文に確かに表れていて、一文一文が素通り出来ないほどに磨き上げられているとすら感じる。あとがきでも書かれていた、オリンピックを核とした舞台背景、水を中心としたエレメンタルの存在感など、作品を支える骨子や印象的な描写を語ればキリがないので、深く考えずとも読んでいて圧倒されるような傑作だったとだけ書き残しておきたい。2023/12/11
キクチカ いいわけなんぞ、ござんせん
32
カナダに住む、ドイツ系4人家族の話。親族に五輪選手が何人かいて、2人の兄妹もスポーツは抜きん出ている。セーリング選手だった父は完璧なボートを作り、母はスポーツはやらないが、家事は万能という、幸せでラッキーな家族だが、時々辛い出来事が起こる。本人たちに何の落ち度もなく起こる。それは住んでいる国が戦争に巻き込まれたように起こる。祖父祖母、叔父伯父が巻き込まれた戦争の悲惨な出来事のように。カズオ・イシグロ、ジュンパ・ラヒリ、に雰囲気が似ている。「サブリナとコリーナ」「ホワイトテュース」にも。2024/09/30
斉藤フィオナ
27
三代にわたってオリンピックに無名選手としてかかわったドイツ系カナダ人一家が体験した苦悩であり、挫折であり、悪夢であり、そして救済である。(訳者あとがきより抜粋) 7つの短編からなる20年あまりの出来事のうち一番印象深いのは「ルビー」。体操のオリンピック選手を目指していたが病に倒れた妹のために心優しい兄はプールに長時間浮かんでいる(何もしないで)チャリティーチャレンジを決行する。その日は大雨の予報で遂には川が決壊するほどの洪水に見舞われるのだがその兄を一晩中見守る妹と友人たちの様子がとてもよい。→2024/05/31
しゃお
23
【再読】というか再々読になるかも。連作短編集ながら、ほぼ長編といっていい構成。でも、各章はどれも読むたびに何かしらの発見や気付きが得れます。とつぜん目の前に投げかけられる描写は、時に理解しづらく何度も少し前に戻って読み返すことも。少年時代の主人公の純粋な残酷さ、妹への優しさ、そして悲劇を受けた後の青年時代を越えて、最後は救いと希望が浮かびあがる光景に、家族の物語として暖かく優しい気持ちで本を閉じる事ができました。また時間を置いて読んだら新たな気付きもありそうです。2025/03/14
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- 和書
- 丹後 古代史の遠いこだま