内容説明
気仙沼のリアス・アーク美術館には、東日本大震災の「被災物」が展示されている。津波に家を流された学芸員は、暮らしを共にしたモノが瓦礫と呼ばれ、ゴミとして処分されることに抗して、破壊されたモノを拾い集め、「被災物」という新しい概念で、その価値を世に問いつづけてきた。2019年、この展示に出会った姜信子は、大阪で「被災物“モノ語り”ワークショップ」を始める。本書は、その呼びかけに応じ、「被災物」に応答を試みた表現者たちの記録である。
目次
1 終わりと始まり(「被災物に応答せよ」―第三者による記憶の継承という問い;モノ語り集1 ほか)
2 「モノ」語りは増殖する(「被災物」は記憶を解き放つ―記憶のケアとしての「モノ語り」;モノ語り集2 ほか)
3 氾物語―躊躇なく触る(リアス・アーク美術館に眠るもの;土の時間、水の時間―志賀理江子との対話)
4 恵比寿の到来(ナニカが海からやってくる;えべっさま、ようきてくれましたな ほか)
5 新しい祭りへ(南三陸集会+気仙沼への旅;エビスが語りて命をつなぐ)
感想・レビュー
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かりん
3
4:《被災物とそこから生まれる語り》リアスアーク美術館に展示される被災物には、語りの文章が添えられている。それは元の持ち主によるものではなく、被災物を前に湧き出てきたエピソードや言葉である。つまりはフィクションだが、被災物に圧倒的なリアリティを与えている。文筆家や音楽家などが自らも被災物を前に語るワークショップを開催。その活動を中心にまとめられた書籍である。震災に一つの真実があるのではなく、それに直面したり触れたりしたことで生まれる思いが大切という気づきを得た。風化を止めるにはむしろそれが必要なのだと。2024/03/08