出版社内容情報
私たちの身のまわりにある本や雑誌、新聞。そこに並ぶひとつひとつの文字は、40年ぐらい前までは、おもに活版印刷で刷られていました。活版印刷とは、ハンコのような鉛の活字を組み合わせて、機械で印刷する方法です。ひとつひとつの文字は、1本1本の鉛活字を並べることで刷られていましたが、その鉛活字のおおもとの型を、かつて人が手で彫っていたことを知っていますか?――活字とおなじ大きさ、デザイン、鏡文字で。
文章のなかには、おなじ文字が何度も登場します。このため、たとえば1冊の本をつくるために、「あ」なら「あ」の鉛活字を何十本も用意しておかなくてはなりません。場合によっては何百本、何千本も。「母型(ぼけい)」というひとつの型から量産するのですが、そのためには必ずだれかがその「母型」のおおもととなる型=「種字(たねじ)」をつくる必要がありました。描いたり、写したりするのではありません。木や鉛合金でできたマッチ棒ぐらいの小さな細い軸に、人の手で「彫って」つくられたのです。
原寸大ですから、本文用でもわずか2、3ミリ角の大きさです。そのサイズに彫刻刀で、それも鏡文字で彫って、明朝体やゴシック体、楷書体など、いろいろなデザインの種字がつくられ、活字のもと=種になった。にわかには信じられないような話ですが、明治から昭和にかけて、実際におこなわれてきたことなのです。この種字を彫る職人のことを、「種字彫刻師」といいました。
はたして、「種字彫刻師」の仕事とは、どのようなものだったのでしょうか。そして「種字彫刻師」とは、どんな人たちだったのでしょうか。本書では、いま、私たちの身のまわりにあるスマートフォンやパソコン、本、雑誌、新聞などのなかに、当たり前のように表示され、印刷されている文字。そんな文字――フォントの源流といえる文字を彫っていた「種字彫刻師」の人と仕事を、わずかに残された資料や実物からひもときます。
【目次】
第1章 活字はじめてものがたり
活字とは?
活字 各部のなまえ
活字のサイズ
活字はこうしてつくられる
活版印刷の流れ
コラム◎種さんの豆知識:活字の大きさ
第2章 「活字の種=種字」をつくる
種字とは?
種字彫刻の流れ
コラム◎種さんの豆知識:種字彫刻の特徴は?
種字から母型をどうつくる?
コラム◎種さんの豆知識:母型づくりの道具
第3章 種字彫刻師が活躍した時代
「種字彫刻師」という人々
日本における近代活版印刷術のはじまり
電胎法――種字1本から何万本もの活字を生み出す活字製法
独自書体の登場
種字彫刻師のはじまり
種字彫刻師の修行
種字彫刻の広がり――活版印刷所の増加
新聞社と種字彫刻
手彫りから機械彫りへ
ベントン、写植、そして現代のデジタルフォントへ
◎種さんの豆知識:母型の種類
第4章 種字彫刻師列伝
東京築地活版製造所
竹口芳五郎…名の残る最初の種字彫刻師
竹口正太郎…築地体の中心をなした人
鈴木彦次郎…明朝体以外の書体を好んだ
安藤末松…築地活版・最後の彫師
コラム◎種さんのこぼれ話:名人母型師・字母吉
秀英舎
沢畑次郎…記録のほとんど残らない彫師
河村?太郎…沢畑とともに「秀英体」を完成させる
コラム◎種さんの豆知識:秀英舎/大日本印刷の活字づくり
コラム◎種さんの豆知識:ベントン彫刻機って?
精興社
君塚樹石…岩波書店の本に多くもちいられた書体を生む
コラム◎種さんのこぼれ話:樹石の師:石渡栄太郎
毎日新聞社
村瀬錦司…竹久夢二の木版彫師もつとめた種字彫刻師
コラム◎種さんのこぼれ話:小塚昌彦さんが語る村瀬錦司
朝日新聞社
太佐源三…声楽・英語・機械も学んだモダンな紳士
コラム◎種さんのこぼれ話:橋本和夫さんが語る太佐源三
コラム◎種さんの豆知識:新聞の扁平活字の反響
岩田母型製造所
大間善次郎…岩田百蔵に認められた天才
馬場政吉…岩田母型の種字を一手に受けた
庭田與一…馬場彫刻工房の一番手
清水金之助…2000年代に何度も実演会をひらく
中川原勝雄…凍りつく寒さのなかでの修行
種字彫刻師・人物相関図



