出版社内容情報
米ロック批評の巨匠はなぜここで、あえて「フォーク・ミュージック」であることを強調したのか? ディラン研究の集大成を刊行!
ディランの想像力を刺激した音楽を最もよく理解している書き手による独創的な書物――『ニューヨーカー』
長編探偵小説のような文化批評であり、音楽的なラヴ・ストーリー――『Rolling Stone』(2022年のベスト・ミュージック・ブックに選定)
博覧強記をもって語るロック評論の出発点はこの人、アメリカの名音楽評論家グリール・マーカスにある。代表作『ミステリー・トレイン』でロック・ジャーナリズムの基礎を築いたマーカスには、すでにディランに関しての本だけでも『ライク・ア・ローリング・ストーン』ほか『Bob Dylan by Greil Marcus: Ecrits 1968-2010』や『The Old, Weird America』など複数ある。
本作『フォーク・ミュージック――七つの歌でたどるボブ・ディラン伝』は、グリール・マーカスのディラン研究の集大成だ。副題にあるように、本書はディランの数多くの歌から7曲を選び、それらを通じてディランの人生の様々な場面に焦点を当てると共に、アメリカにおけるフォーク・ミュージックおよびフォーク・リヴァイヴァル運動の持つ文化・社会・政治的な意義と役割を浮き彫りにしていく。
取り上げられた歌は “風に吹かれて” や “時代は変る” といった60年代の代表曲から比較的知名度の低い歌、そしてコロナ禍に揺れる2020年に突如発表され世界を騒然とさせた大作 “最も卑劣な殺人” まで幅広い。ゆえにブラック・ライヴズ・マター運動や、オバマからトランプ時代へ推移した21世紀のアメリカとのディランの反響・連関も読み取れる。
起点となる曲の発表年代はバラバラであり、音楽を軸に、社会的な事件、民話、書籍、映画他も多数参照される。過去の発言や文献からの引用、言及される対象の幅も広い――たとえば、スージー・ロトロ、ピート・シーガー、メイヴィス・ステイプルズ、ロバート・ジョンスン、ローリー・アンダースン、アラン・ローマックス、デイヴ・ヴァン・ロンク、アン・ブリッグス、カレン・ダルトン……。
ここでのマーカスの博識で多角的、時空を越えて結節点を見出していく縦横無尽なアプローチは、「私の中にはたくさんの人間がいる(I Contain Multitudes)」と言うディランの思考と通じると言えるだろう。
マーカスという名ガイドは、フォーク・ミュージック、そしてその歴史における特異点としてのディラン像を構築していく。自伝、評伝、楽曲解説、評論、学術論文、各種ファンサイトと、無数に広がる「ディラン学」。そこにまたひとつ加わった、決定的な一冊と言えるだろう。