出版社内容情報
在宅医療の現場は、病院のように高度な検査機器がそろっているわけではありません。限られた道具と時間の中で、目の前の患者の命を守る判断を下さなければならない――そんな究極の現場に立ち続けてきたのが、徳島で往診専門クリニックを開業する医師・渡部豪氏です。本書『救急往診医の判断力』は、著者が7~8年の経験から得た8つの典型的な診断事例を通して、在宅医療における「判断力」と「経験値」の本質に迫る一冊です。
収録されている症例は、絞扼性イレウスや心筋梗塞の前兆を初診で見抜いた事例、胸痛や意識障害の鑑別といった緊急対応、骨折疑いの診断や在宅処置の可否判断、さらにはゴミ屋敷での診療や行政との連携といった社会問題への対応にまで及びます。現場で実際にどう見極め、どのように行動したのか。著者は一連の判断プロセスを丁寧に記録し、その根拠と考え方を明らかにしています。
また、新型コロナ禍での入院困難事例への往診や、自宅での感染症治療、医療崩壊の最前線を支えた経験も詳細に紹介。在宅がん患者のケアや、今後社会全体が直面する「心不全パンデミック」への対応など、これからの日本の医療に欠かせない視点も盛り込まれています。
本書の大きな魅力は、単なる症例集にとどまらない点です。そこには「限られた環境でも最善を尽くす」という往診医の使命感と、患者や家族の生活に深く寄り添う医療のあり方が描かれています。救急搬送の判断基準や在宅で可能な処置の範囲といった実務的な知見は、往診を志す医師や救急医療の従事者にとって実践的な手引きとなるでしょう。一方で、地域医療や在宅医療の重要性を考える行政担当者や一般読者にとっても、超高齢社会を生きる私たちに欠かせないリアルな課題を知る手がかりとなります。
救急往診は、病院医療と比べれば光が当たりにくい分野です。しかし著者が示す豊富な経験と冷静な判断の積み重ねは、これからの医療に不可欠な「在宅の最前線」を照らし出します。在宅医療の可能性と、医師の判断力がいかに人の命を左右するかを知ることができる貴重な一冊です。
【目次】
内容説明
地域医療の最前線へ―患者が動けないから、医師が動けばいい。“往診屋”の仕事が、いま地域医療を変えている。
目次
第1章 先入観で患者さんを診るな(「お腹が痛い」が一番難しい;たかが、めまい。されど、めまい;疾患が特定しづらい意識障害;右肩が痛い人への深夜往診;スーパーマーケット路上への往診)
第2章 患者さんの生活を診る(医師頭にならない;喉が痛い、声が出ない病気)
第3章 家族の希望と医療のジレンマ(入院できない患者さんをどうケアするか;コロナ禍での往診;腰痛には要注意;忽然と消えてしまった患者さん)
第4章 治すのではなく和らげる治療(患者さんの痛みを少しでもやわらげたい;血糖値が異常に高い患者さん)
第5章 終末期医療と往診屋(死亡診断のために往診する;末期癌患者への緊急往診)
著者等紹介
渡部豪[ワタナベタケシ]
1994年徳島大学医学部卒業後、厚生省(現:厚生労働省)入省。2000年徳島県立中央病院にて臨床研修医、2003年さくら診療所(徳島県吉野川市山川町)にて勤務。ホウエツ病院勤務を経て、2014年吉野川市にて往診を専門に掲げたよしのがわ往診診療所を開業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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