目次
いつかたこぶねになる日
それが海であるというだけで
釣りと同じようにすばらしいこと
虹をたずねる舟
翻訳とクラブアップル
とりのすくものす
タヌキのごちそう
おのれの分身と連れ添う鳥
あなたとあそぶゆめをみた
空気草履と蕎麦
屏風絵を旅する男
はだかであること
愛すべき白たち
はじめに傷があった
隠棲から遠く離れて
スープの味わい
イヴのできごと
海辺の雲と向かい合って
生まれかけの意味の中で
砂糖と試験管
紙ヒコーキの乗り方
春夜の一服
ベランダ暮らしの庭
文字の消え去るところ
鏡とまぐわう瞳
無題のコラージュ
ひょうたんのうつわを借りて
貝塚のガラクタたち
ファッションと柳
旅行の約束
わたしの祖国
著者等紹介
小津夜景[オズヤケイ]
1973年北海道生まれ。俳人。2000年よりフランス在住。2013年「出アバラヤ記」で攝津幸彦賞準賞、2017年『フラワーズ・カンフー』(2016年、ふらんす堂)で田中裕明賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
榊原 香織
76
好き好き大好き凄い好み フランス在住俳人? 漢詩をソフトな日本語訳にする。 読書案内でもある。 知的でありながらフワフワといつの間にか違う世界に入ってるようないないような。 定型詩の型は武術の型、みたいな生きた型、と感じるなんて、この人も武術やってる人?2022/03/19
seacalf
69
学生時の授業以外では敬遠していた漢詩が鮮やかに目の前に立ち上る感動ったら。あのとっつきにくいと思っていた漢詩が面白いように読めるのは軽い快感を感じるほど。翻訳も上手いが其々の言葉も解説も簡潔で鮮やか。南仏での生活を交えて自らの興味関心を軽やかに紹介した肩の凝らないエッセイと漢詩の紹介。俳人らしいきらめきのある文章と、聞いたことのない面白い話やエピソードがわんさと出てくる。はじめは小津夜景さんの博覧強記ぶりに目を見張り、次第に心地良く身を委ねていく。リラックスしながら程良く知的好奇心を掻き立ててくれる良書。2022/06/17
たま
52
読書メーターに教えられて読みました。とても良かった。日常の雑感から様々な漢詩(中国あり日本あり8世紀から20世紀まで)へと読者を誘う。の授業の授業で杜甫や白居易を習っただけなので日本の漢詩や現代中国の詩は初めて。漱石は「菜花黄」が採られ伸びやか。平安時代の「水中の影」(桑原広田麻呂)は水に映る自然を歌って繊細。食べ物の詩も多く感覚がみずみずしく遊び心があって楽しい(杜甫の槐の葉の冷や麦、新井白石の蕎麦打ち、藤原忠通の野いちご)。小津夜景さんの翻訳が素晴らしくどの詩も心に残る。読後感爽やかな詩選集。2022/05/03
チャーリブ
51
俳人の小津夜景氏がお気に入りの漢詩に自作の訳詩を添えて紹介するという体裁の、いわば漢詩エッセー。たこぶねは宮殿のような貝殻に住むタコで、貝を作るのはメスだけ。時をかけて作り上げた美しい貝殻を脱ぎ捨てて、人生の後半を自由にしなやかに生きる女性たちのメタファーとしてたこぶねが使われている。著者は2000年からフランス在住。南仏での「たこぶね」的な暮らしぶりも愉しそう。従来の訓読的漢詩から離れてもっと自由に漢詩の世界にアプローチできる「どこでもドア」的な快作。蘇軾「春夜」の訳詩は一読の価値あり。◎2022/06/11
まこみや
48
さしあたり感銘した美点三つ。第一にその文章に書巻の気掬すべし。「本の中にひろがっている、忘れられた世界の素顔に出会い直す」歓びと悲しみを語るのはひとり陸游に限らない。第二に私的な挿話と主題としての漢詩との付け合いの鮮烈なこと。俳人としての筆者の力量を示すに足る。第三に原文の漢詩の和訳が一倡三歎すべき独立した詩になっていること。まさに掌中の一冊として永く付き合っていきたい本である。2022/02/27