内容説明
一九六〇年代以降、大学進学によって貧しさから脱け出し、軍事政権による開発経済の恩恵を受け、建築家として成功した初老の男性。そして急速な発展の結果として拡大した現在の格差の中で、多くをあきらめながら苦しい生活を送る劇作家の若き女性。持てる者が失わなければならなかったものは何か。持たざる者がなお手放さないものは何か―。韓国文学を代表する作家が、現代社会に生きる人間の魂の痛みを静かに描き出す。
著者等紹介
黄〓暎[ファンソギョン]
1943年満州長春生まれ。東国大学哲学科を卒業。高校在学中に『思想界』新人文学賞を受賞。短編小説「塔」が1970年朝鮮日報新春文芸に当選し、本格的な作家活動をはじめた。1989年『武器の影』で萬海文学賞を、2000年『懐かしの庭』で丹斎賞と怡山文学賞を、2001年『客人』で大山文学賞を受賞した。世界各地で多くの作品が翻訳、出版されている
姜信子[キョウノブコ]
1961年、神奈川県生まれ。著書多数。2017年、『声 千年先に届くほどに』(ぷねうま舎)で鉄犬ヘテロトピア文学賞受賞
趙倫子[チョリュンジャ]
1975年、大阪府大東市生まれ。韓国語講師。パンソリの鼓手および脚本家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ウメ
3
人は弱いものだから。この世を生き抜くために誰しも記憶の改ざんを行っていよう。過去を美化して慈しむ者、過去を封印して遠ざける者。同じ時を過ごした人たちの過去から現在まで、立場によって生じた無情なまでの温度差を突き付ける。2021/12/22
Red-sky
2
現役で民主化運動に参加しそのときの空気感を描きつつ、現代社会の若者の生活も描けるなんて最強の作家じゃないか。ソンドンネ出身から一流大学に入り建築家として成功する者と半地下に生活しながら演劇をするためにコンビニで深夜バイトをする者。コンビニでの生活場面が「不便なコンビニ」と似通っていて韓国の若者を描く一種のアイコンになっているのかもとも思ったり、町開発の場面は「こびとが打ち上げた小さなボール」も彷彿とさせ近代韓国の歴史を端的に鮮やかに描いているのかもしれない。2025/05/25
takenoko
0
朝鮮戦争以降の独裁〜民主化の歴史の中で生きる人々、という背景は同じだが、これまでは、女性の、同世代か若い世代の作者の作品を読むことが多かったので、本作はなんだかちょっと視点が異なって見える景色が違う気がした。何か答えとか解決策があるわけではない。それでも生きていかねばならんのかなあ。2025/03/11
みみこ
0
抜け出したと思っても、結局芯のところはそのままなのだ。それを否定せず、諦めなしに受け入れて生きていけたら、やっと少し変わるだろうか。2022/06/12
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