感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
マリリン
39
全作品に貧困と抑圧感・死と生が漂う。静謐な文体から重さは感じられないのは表現の美しさからか。内容は時代の告発と受け取れるかもしれない。…これで君と幸せでいることに慣れた、というリョーバの言葉が余韻として残る「ポトゥダニ川」で静かな感動があり、「ユーシカ」「セミョーン」「鉄ババ」から当時の生活が見えてくる。この時代を生き抜くこととはこういうことかと考えさせられる。幻想的な香りが漂う「たくさんの面白いことについての話」は、一番面白く心に残った作品。静謐な中にも、当時の状況をリアルに描いた傑作だと感じた。2024/03/25
aika
38
残酷な暗闇を掻き分けた先にある静謐な温もり。小品ながらそんな作家のエッセンスが詰まった貴重な作品群です。血で血を洗う戦争から父の待つ故郷へ帰還したニキータが愛妻と紡ぐ細やかな結婚生活の幸福と、尽きることを知らぬ孤独の悲しみ。表題作に続く、惨めな老人の半生と彼の宝物を描く「ユーシカ」、貧しさの中で兄弟の世話をする少年の物語「セミョーン」と、涙を拭わずにはいられませんでした。人間の想像、思想、そして自然と科学とが融合している世界観が、どことなく宮沢賢治を思わせる発見もありました。訳者あとがきも胸に響きます。2023/10/17
燃えつきた棒
35
社会の底辺に生きる貧しい人々を描いた「ユーシカ」と「セミョーンーー過ぎた時代の物語ーー」のニ篇が心に残った。 「ユーシカ」: これは僕の物語だ。 またひとつ僕の物語を見つけた。 ◯ 地の中を 這いずりまわり 這い出でて 命のかぎり 鳴けよ爺蝉/ ◯救い難き とうに死すべき 愚者なれど たった二人の 女に生かさる/ ◯ 無能にて 殴られ蹴られ 笑われて 小さきものに そっと寄り添う/ 【遠い昔、古い時代のこと。私たちの通りに、見たところひどく年老いたひとりの男が住んでいた。男はモスクワに通じる大きな→2024/06/26
松本直哉
28
全てを捨てて極貧に甘んじて卑しめられる〈聖なる愚者〉という正教会の伝統がこの20世紀の作家にも継承されているのがよく分かるのは「ユーシカ」で、主人公が人知れず行った善行が明らかになる結末は静かな感動。戦争で心に傷を負って帰郷したニキータが、ある日突然姿を消して、唖のように口をきかずに卑賤な仕事に携わる表題作にも聖愚者の面影。一番好きだったのは「セミョーン」で、貧窮のどん底で産褥死した母親の服をを頭からかぶって、今日からは僕がお母さんになって、小さな兄弟の世話をすると宣言する7歳の少年の軽やかな性役割の転換2023/11/13
のりまき
22
プラトーノフは子供の眼を持った心の美しい人なのだろうと思わせる短編集。優し過ぎてすれ違う『ポトゥダニ川』あまりに美しい『ユーシカ』健気な子どもに涙が溢れる『セミョーン』 『たくさんの面白いことについての話』はとてもロシアらしいなと思った。2023/12/31
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