内容説明
流行や出版環境、経済状況といったいわば「不純な」要因と関係し合ったものとして作家や小説の価値をとらえる。日記から広がる新しい研究。メディア、金銭収支、人脈、雑誌、癌、飲酒、時事問題―半世紀にわたる日記から見た小説を書くという営み。
目次
第1部 論考編―作家とメディア環境(作家とカストリ雑誌のせめぎ合い カストリ雑誌に消費された純文芸作家―榛葉初期作品における「性」と肉体;モデル小説の権利問題と影響力 モデル小説の応酬とその批評性―榛葉英治『誘惑者』と四条寒一「縄の帯」;戦後の文芸メディア変動の力学 純文学を志向する中間小説作家・榛葉英治―文芸メディア変動期における自己像の模索とその帰結;文学と映画の関わり 一九六〇年映画と文学のすれ違う共闘―榛葉英治『乾いた湖』の映画化による改変をめぐって;戦争の記憶とその継承 作家が描いた引揚げ体験と南京大虐殺事件―『城壁』との関わりから ほか)
第2部 データ編―日記資料から何がわかるか(日記への関わり方―日記のなかに書かれた「日記」の記録;作家の経済活動―金銭収支の記録;文壇グループの動態―人脈の記録;雑誌メディアへの言及の変遷―雑誌に関する記録;「癌」という病―癌に関する記録 ほか)
著者等紹介
和田敦彦[ワダアツヒコ]
早稲田大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。早稲田大学教育・総合科学学術院教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
104
榛葉英治という直木賞作家がいたとは知らなかった。純文学で身を立てようとしながら生活のためエロ小説に手を染め、ついに文壇で認められなかった。直木賞同期が山崎豊子で芥川賞が大江健三郎なのだから、気の毒なほどの落差だ。そんな榛葉の遺した日記から、戦後出版文化の最底辺にしがみつく売れない文士の姿が見えてくる。小説の注文もなく貧乏に苦労し、丹羽文雄に借金しながら飲酒をやめられず、繰り返し金がないと日記に綴る。戦前の私小説に出てきた生活無能力者そのものだが、作家のプライドだけで貫いた生き様は呆れながら感心してしまう。2022/10/22
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- 和書
- 幸せに死ぬ義務がある