内容説明
日中戦争開戦へと至る「空気」はどのようにつくられたのか?満州事変の翌年に始まった「農山漁村経済更生運動」は、「生活改善指導」の名の下、緩やかに民俗慣行に介入していく。むらの相互扶助システムは、相互監視の役割をも果たし、「守らければならない」という雰囲気が人びとを包み込む。各町村が策定し、県がとりまとめた『茨城県農山漁村経済更生計画書』をつぶさに読み込み、官製運動が「民」を動かすメカニズムに迫る。
目次
序章 一九三〇年代の官・民合わせて創られた民俗慣行
第1章 農山漁村経済更生運動と更生計画書
第2章 日常生活・人生儀礼に関わる生活改善指導
第3章 数量化、組織化、明文化で生活改善指導を実行する方法
第4章 同時代に交差した経済更生運動と生活改善運動
第5章 「因習」「弊風」「陋習」とみなす評価、「美風」「美俗」とする評価
第6章 まとめと今後の課題―官製運動において介在される民俗慣行
著者等紹介
和田健[ワダケン]
千葉大学大学院国際学術研究院・国際教養学部教授。専門は民俗資料論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Mealla0v0
4
冠婚葬祭などの民俗慣行は、実は戦争へと至る時代に変容したのではないか。「冗費の節減」「社会教化」の掛け声のもとで生活改善運動と経済更生運動が展開されていくが、国のスローガンに、実際には市町村レベルの「間」と民間団体と民間人の「民」が主体となって行われた。そこでは官が緩やかに、しかし積極的に介入し、町村を相互監視的で同調的な世間が形成されていく。「1930年代の日本は、ドラスティックかつ強圧的な側面よりも、緩やかな思想統制や生活改善指導のなか、何となく日本国民の世論や生活のあり方、考え方が集合化されていく」2021/10/08