内容説明
「普済にもうじき雨が降るぞ」そう言い残して失踪した父、心をざわめかせる謎の男の登場、琥珀の眼を持つ金の蝉…。外の世界には、自分の知らない無数の奥深い秘密があるが、みんな口を閉じて、自分には何ひとつ漏らそうとしない。―秀米は世の中の全てにいらだっていた。茅盾文学賞・華語文学メディア大賞受賞作。
著者等紹介
格非[カクヒ]
本名・劉勇。清華大学人文学部中国語学科特任教授。同大学文学創作・研究センター所長。1964年中国江蘇省鎮江市生まれ。85年上海・華東師範大学卒業。デビュー作は86年「追憶烏攸先生」。87年「迷い舟」などの作品で、「先鋒文学」の旗手とされる。2004年、およそ十年の沈黙をへて『桃花源の幻』(原作「人面桃花」)で中国読書界を騒然とさせる。この作品で第3回華語文学メディア大賞(年度傑出成果賞 2004)、第2回鼎鈞双年文学賞(2005)を受賞。続く第二部「山河入夢」、第三部「春尽江南」と合わせた「江南三部作」として、第九回茅盾文学賞(2015)受賞。清華大学で文学理論などを講義する傍ら、精力的に執筆活動を続け、最新長編作品「望春風」(未邦訳)で、第1回京東文学賞(2017)受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヘラジカ
54
「自分は大河に落ちた木の葉と同じ、まだなんの声も発しないうちに、激流に呑みこまれてしまった。」桃源郷を夢見て戦う者たち、否応無く巻き込まれ苛烈な運命を辿る少女、そしてそれを取り巻く個性豊かな村人、多くの人々が綾なす豊穣な物語。歴史の流れに翻弄される人間たちは、ときに残酷でときに滑稽な、活き活きとした姿を見せてくれる。女性や弱者に対する惨たらしいな仕打ちには何度か目を背けたくなったが、全体としては非常に美しく魅力的な作品だった。辛亥革命前夜の混沌とした中国を舞台にした正に神話のような小説。2021/11/24
昼夜
15
桃源郷を求めて奮闘する人々の群像劇。ユートピアは絵に描いた餅のような理想を掲げただけでは血肉は通わない絵空事になるけれど、生々しい欲望が理想の名を借りて暴走が空回って自滅していくのがなんか人間らしく感じてしまった。2021/12/03
inarix
11
秀米。きっとこの少女は自分がいつか大人になることさえ知らなかったに違いない。外の世界に満ちる無数の奥深い仕組みや秘密をなにひとつ知らないままに。しかし「普済にもうじき雨が降るぞ」と言い残して父親が失踪し、親戚を名乗る見知らぬ男が現れ――否応なく変化は訪れる。誰もが平等に生きる理想郷の実現を求める情熱の目覚め。あまりに拙い彼女たちの革命運動は、やがて辛亥革命の渦に飲み込まれていく。中国が近代に目覚める前夜。農村に生きる人々が求めた革命と桃源郷の幻を儚く描く中国文学。悲惨も幸福も、この世のすべては夢のようです2021/12/05
冬薔薇
6
清朝末期、革命の波が寄せる世を背景に描かれる、江南の農村に暮らす大地主の一人娘秀米の成長と数奇な運命。視点を秀米、老虎、喜鵠と変えて綴られていく。この普済の長い物語に飲み込まれていく。ラスト秀米に見せた過去、未来。人生は夢、幻の如く。真の桃源郷はどこに。蝋梅の香りをかぐとき、秀米の物語を思い出しそう。圧巻の大作一気読みだった。2022/04/12
mamaou
2
厚い本だが、一気読み。最初、性、排泄、痰、殺人等の描写に抵抗があったが、全体を捉えるよう読み進めると、時代によって変わる常識、政治、災害を含めた世の中の変動に翻弄される、主人公秀米を軸に繰り広げられる人間模様の描写は素晴らしい。舞台劇として上演されたそうだが、是非長編ドラマ化して欲しい視覚的小説。中国古典や京劇に親しんでいればより一層面白さが判るのだろう。私にはその知識が無いので、その点が残念。古典を勉強して再読したい。2022/09/05