内容説明
1927年5月、新しい芸術文化が勃興する日本を訪れたロシア青年、G・ガウズネル。メイエルホリド劇場から派遣されたこの若き演劇人は、約半年間の日本滞在で何を見、体験したのか、幻の日本紀行、本邦初訳。岡田嘉子とソ連に亡命する演出家・杉本良吉をはじめ、葉山嘉樹、蔵原惟人らとの交流。そして歌舞伎・能の観劇や関西紀行など、いまでは忘れられた日本の風俗が浮上する貴重な記録。
目次
1 本州を横切って
2 東京
3 紙の家の人々
4 ナガタ
5 日本の劇場にて
6 前衛座
7 葉山嘉樹
8 労働者地区
9 奈良・京都
10 日本アルプスにて
11 大阪にて
著者等紹介
ガウズネル,グリゴーリー[ガウズネル,グリゴーリー] [Гаузнер,Григорий Осипович]
1906年11月1日、モルドヴァ共和国キシナウに生まれ、1934年9月4日、アブハジア共和国ガグラに没する。作家、詩人。モスクワのブリューソフ文学芸術大学を卒業後、1925年、構成主義文学センターに参加。国立メイエルホリド劇場演出部に所属する
伊藤愉[イトウマサル]
1982年、京都府に生まれる。一橋大学大学院言語社会研究科博士課程単位取得退学。現在は、明治大学文学部専任講師。専攻は、ロシア演劇史、日露文化交流史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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かもめ通信
18
1927年、ロシア革命からちょうど10年を経た年、20歳のガウズネル青年は初めて日本を訪れた。日本の演劇の調査を目的とした国立メイエルホリド劇場演出部からの派遣員、そして『ナーシャ・ガゼータ(我らの新聞)』の特派員という立場だった。約半年間、東京、箱根、名古屋、京都、奈良…と旅をしながら、日本人作家や演劇人たちと密度の濃い交流をする。人にも風土にも興味津々の若き好奇心と、20歳とは思えない洞察力。訳注や解説も充実していて、演劇や文学や思想といった観点から日本の近代史を改めて学んでみたくなる一冊でもあった。2024/10/21
きゅー
9
約100年前の日本をロシアの青年が訪れていた。目的は日本演劇の調査と、新聞特派員としての記事執筆だ。彼が見聞し、後に纏めた日本紀行記が本書となる。江戸と20世紀が混じり合う人々の生活や風俗習慣は非常に奇異なものとして映ったようだ。そしてまたロシア人による視座として、欧米に感化された当時の上流階級の教育や文化がいかにチグハグであったかも書かれている。「セメント樽の中の手紙」の作者、葉山嘉樹との対面なども興味深い。「日本人はなべて流行から流行への日々を送る」なんて慧眼も。2023/11/27
qoop
4
ロシア革命から十年、当時のソ連の理想を芸術的に体現しようと試みる劇団関係者が日本を訪れた際のルポルタージュ。未だ無名の一青年だからこそ垣間見られた人心・情景・風俗などが新鮮な筆で表現されている。こののち早逝する青年の運命、変転するソ連の政情も含めて興味深く読んだ。2024/09/19