内容説明
戦後フランスを代表する作家ロマン・ガリ(一九一四‐八〇)が、自殺する直前に遺した最後の長篇小説(原著一九八〇年刊)。稀代の凧揚げ名人を叔父にもつ主人公の少年リュドは、ポーランド人の令嬢リラに恋をするが、対ナチス戦によって2人は引き裂かれる。リラへの思いを募らせるリュドは、凧がふたたび自由に空を舞う日を取り戻すためにレジスタンスへと身を投じるが、それはフランス=善/ナチス=悪という図式が崩壊してゆく過程でもあった…。日本でも再評価著しい作者の遺作。
著者等紹介
ガリ,ロマン[ガリ,ロマン] [Gary,Romain]
出生名、ロマン・カツェフ。フランスの小説家、映画監督、外交官。1914年、ロシア帝国領ヴィリア(現在のリトアニア共和国ヴィリニュス)に生まれ、1980年、パリの自宅で自殺。35年、フランス国籍を取得。第二次世界大戦では空軍に参加し、対独戦に従事。戦後は外交官として各国を転任しつつ、戦後フランスを代表する小説家として活躍する。主な作品に、『自由の大地』(1956、ゴンクール賞受賞)、『これからの一生』(エミール・アジャール名義、1975、ゴンクール賞受賞)がある
永田千奈[ナガタチナ]
翻訳家。早稲田大学第一文学部卒業。訳書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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あさうみ
26
素晴らしい…!ナチスに蹂躙されるフランス、戦下で貫く少年期の純愛。志を失わずに絶望で困難な時をくぐった人々を繊細に描く。戦時中はユダヤ人という括りで迫害され、戦後はドイツ人という括りで憎悪の的になる。考えさせられる。しかし失われない希望と優しさに満ちている読了感。今まで読んだ中でも屈指の美しい愛の物語だった。2020/02/24
かもめ通信
25
戦後フランスを代表する作家ロマン・ガリが、自殺する直前の1980年に発表した最後の長篇小説。一見すると一途な愛の物語のようにも思えるが、ストーリーの明快さにもかかわらず、戦争下で懸命に生きる人々誰もが、心の中に複雑な想いを抱いていることとともに、戦争が正義と悪という単純構造で語り得ないことをも丁寧に描いている。吸い込まれそうなほどに真っ青な装丁にくっきり浮かぶ凧の文字。この装丁が様々な凧の絵が描かれているよりも何倍も想像力をかき立てる。今年のマイベスト10入りは間違いないか。 2020/05/11
ケイトKATE
7
ロマン・ガリは初読みの作家だが、フランスでは人気の高い作家であることが本書を読んで分かった。物語が情熱に満ちているからである。ノルマンディーを舞台に、主人公リュドと初恋の女性であるポーランドの貴族令嬢リラを一途に愛するが、第二次世界大戦が二人の運命を翻弄する物語。初恋の相手への一途な愛の物語となるとメロドラマ調になってしまうが、戦争下で懸命に生きる人々がしっかり描かれている。また、フランスは正義でドイツは悪という単純構造で戦争を語っていないのも注目すべき所である。2020/03/17
Penn
3
何より、登場人物が良い。郵便配達夫という地味な仕事をしつつ凧の名人だった伯父、フランス料理の力を信じて節を曲げないシェフ、彼の力を認めるドイツ人将校、したたかに生き抜く売春宿の女主人等、魅力的な人物に事欠かない。そして、小学校の先生が主人公に語った「想像の産物がなかったら、生きる価値はない。さもなきゃ、海もただの塩水だ」「もちろん、いつだってあるがままの姿を受け入れなければならない。だが、あるがままの姿をうけいれたら、それで終わりさ」という言葉がこの小説全体を貫き、暗い季節を乗り越える力となった。2020/09/06
M
3
主人公が恋人を純真に想い続ける様子にはダンテの「神曲」に見られるような愛の神秘化、神格化のような印象を受けるが、作者のロマン・ガリにとってはその対象が異なれど、現実にその体現者だったからこそ、この物語が生まれえたのだろう。誰かを想う気持ちが生きる活力になるというのは誰しも経験したことのある事実だが、想い続けられるような相手の存在に出会うこと、そしてその関係性を維持していくことの難しさもまた誰しも経験済みではないだろうか。この物語において、その両面は激動の時代だからこそ両立しているようにも感じてしまった。2020/02/20
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- 和書
- 時の波打際