内容説明
1993年、深刻な経済危機下のキューバ。数学教師のジュリアは、ハバナで初めて電話が発明されたことを証明する、イタリア人発明家・メウッチの重要な自筆文書の存在を知る。その文書をめぐって、作家、ジャーナリスト、そして元恋人までが虚々実々の駆け引きと恋を展開するが…。キューバ出身の新鋭作家が、数学とミステリーの要素を巧みに織り込んで挑んだ代表作。2012年カルベ・ド・ラ・カリブ賞受賞作。
著者等紹介
スアレス,カルラ[スアレス,カルラ] [Su´arez,Karla]
1969年、ハバナに生まれる。ハバナ工科大学卒業。小説家、電子工学者。1998年以降、ローマ、パリと移り住み、現在リスボン在住。長篇小説に、『沈黙』(1995、レングア・デ・トラポ賞受賞)などがある。『ハバナ零年』(2012)で、カルベ・ド・ラ・カリブ文学賞、およびフランス語圏島嶼文学賞を受賞
久野量一[クノリョウイチ]
1967年、東京に生まれる。東京外国語大学地域文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。現在は、東京外国語大学准教授。専攻は、ラテンアメリカ文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイ
121
キューバに憧れ、カストロに惹かれ、中米での立ち位置や対米姿勢に感服している私には、電子工学者でもあるキューバ女性の小説は期待大だったのだが、これはなんとしたものか。電話の発明者の話と、1993年の電話すら持てないキューバの状況。電話の発明者を示す文書をめぐる駆け引き。それに、複数の男女が絡み、それぞれの思惑にそって行動するのだが、人間関係が希薄で、みな自分のことばかり。エーコは、文学にラテン語を取り入れて大成功したが、この作者の文学に科学を入れる試みはあまり成功しているとは思えないな。2019/06/04
アキ
64
1993年キューバにて経済危機の最中、イタリア人メウッチの文書が電話発明の証拠となる可能性を知り、皆が一攫千金を夢見て手に入れようと躍起になる。「笑うこととセックスすることと夢を見ることしかなかった」ハバナでメウッチの紙片を捜していたそれぞれが自分の目論見を隠しつつ、虚々実々のやり取りがややこしく笑えるくらい嘘つきばかり。ジュリアはあちらにもこちらにもだまされてセックスに耽る。そしてベルが発明したとされてきた業績は、米国で正式にメウッチが最初に発明したものと断定された。紙片が発見された頃にはもうただ同然!2019/10/23
かわうそ
31
「全員嘘吐き」とアウトレイジばりのキャッチコピーをつけたくなる人々が、それぞれの目的に向けて次から次へと嘘を吐きまくり、そのたびに見えてくる真相がめまぐるしく変化する面白さ。深刻な経済危機下にあるキューバ社会を舞台にあの手この手でしたたかに生き抜こうとする人々を描く小説としても非常に面白かったです。2019/06/09
三柴ゆよし
23
電話の普及によって、世界は以前より明らかに狭まった。そして電話の真の発明者をめぐるこの冒険小説にしてスパイ小説(と私は思う)においては、その狭さこそが重要なのだ。そう、いまや世界は狭い。両端を結ぶ線の距離はゼロにも等しく、私たちは指先ひとつで極から極を架橋することができる。が、本作の舞台となる1993年当時のキューバは深刻な経済危機下にあり、人びとは毎日の通勤通学にすら多大な労苦を強いられ、おまけに、電話もロクに使えないのだ。そのかわり、本書の語り手たる数学者のジュリアは、行く先々で多くの偶然にぶつかる。2019/03/07
チェアー
15
初キューバ小説。経済が崩壊した1993年。キューバで電話が発明されたという衝撃的な史実をもとに、なにもない社会で、文学と数学、男と女、女と女、男と男、親と子、兄と妹などさまざまな関係が絡み合う。ミステリーのようであって、汗やアナログな匂いもぷんぷんする。そして最後には、あっというどんでん返し。面白かったなあ。傑作。2019/05/09
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