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内容説明
シンガー最晩年の到達点―ヒトラーの恐怖を生き延びて、それぞれニューヨークに辿り着いたユダヤ難民たち。常に死を意識しながらも新たな生を模索する彼らだが、作家アーロンは、その中の一人の女性ミリアムに強く惹かれていく。やがて彼女の“暗黒”の過去が暴かれていくが…。「お話の名手」であるシンガーが自らの作家人生をリアルに織り込みながら描く最晩年の必読長篇。
著者等紹介
シンガー,アイザック・バシェヴィス[シンガー,アイザックバシェヴィス] [Singer,Isaac Bashevis]
1904年、ポーランドのワルシャワ郊外でラビの子として生まれる。25年から、イディッシュによる短篇小説を発表しはじめる。35年に、兄で作家のイスラエル・ジョシュア・シンガーをたよってアメリカへ渡る。その後もイディッシュで作品を書き続け、78年にはノーベル文学賞を受賞した。1991年にアメリカで亡くなった
大崎ふみ子[オオサキフミコ]
1953年生まれ。明治大学大学院文学研究科博士後期課程退学。鶴見大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
82
ホロコーストで魂を引き裂かれ、奪われたものを徐々に取り戻していきながらも喪失を抱えて新天地で生きていくユダヤ人達を描いた作品では最近、読んだのは『はかない光』である。しかし、愛を求め、報われたが故に喪失を受け入れ、一抹の希望があった『はかない光』と比べ、この作品は陰鬱だ。ユダヤの共同体からしてみれば、ミリアムは同胞でありながら生きるために戒律を犯した裏切り者だ。でもそういう状況になった時に人は人としていられるのか。ラストでミリアムへアーロンが告げた一言に背筋が凍る。それは罰か、自分も背負うことでの赦しか。2017/06/19
らぱん
52
シンガーを「歯を食いしばらなくていいドストエフスキー」と思っているのだが、この作品は「大審問官」だった。 舞台は戦後のニューヨークのアシュケナジム社会で、ホロコーストという受難を超えて生き残った人たちの暮らしぶりが活写され、同胞との濃い連帯や緩い性愛関係などが面白おかしく描かれる。 男は神の存在は疑わないが神の慈悲は信じない。世界が間違っているのか。人間が間違いを起こすのか。 男は贖罪者になる道を選んだということなのだろうか。あるいは、神に立ち向かっているのか。 重い主題だが読みやすく暗い話だが面白い。↓2020/01/21
みねたか@
34
メシュガー。イディッシュで「正気を失った」の意。ホロコーストを生き延びアメリカで暮らす人々。失ったのは生きることへの意思,神の慈悲への信心,国家に対する信頼,そして豊饒な文化自体。人々の背負った過去は苛酷という言葉では言い尽くせない。このような背景の中で,スピード感あふれる展開,身を滅ぼし人生観すらも崩壊させるような激しい愛の世界を描き、奔流に弄ばれるような読書の悦びを感じさせてくれる。ホロコーストのさなかの行動を人が裁くことができるのかとい問いはあまりに重く、じっと向き合うことしかできない。2020/08/29
マリリン
34
不思議な気持ちになる。書かれている内容は唖然とするような男女の性が終始絡んでいるが、穏やかな慈しみの感情が沸き上がる。...「死」と共に生き延びられるとは思わない時代を生きてきた。...世の中はメシュガーになりつつある。...これがニューヨーク、世界全体が永遠なる精神病院、アメリカが最後の逃げ場... イデッシュを話す者たちの魂(死者・生者・人種の隔たりもないのか)の息遣いが聴こえる。特に第七章のシーンは静かな感動がある。衝撃的な事実すら乗り越え静かに結ばれたアーロンとミディアムの姿にも。2020/07/16
ぺったらぺたら子
14
神によって、狂った世界に投げ込まれてしまったのであれば、神に抵抗し、神から自立することでしか正気を保って生きる事は出来ない。ではどうするか?自分の倫理・論理・感覚に従う生き方を選ぶ。そこで主人公は地獄の様な選択を迫られるのだが、、、文化の不動産を持たない人々がその動的平衡を保とうとする。信仰と言葉。料理。慣習。そして同胞との緊密な繋がり。本作ではその繋がりが濃厚過ぎて、長屋の人情みたいな暖かさと距離感の無さがある。性関係がゆる過ぎて呆れつつも愉しいのだが、全体に倫理観がゆらいでしまう気持ちよさがあった。2019/08/18