内容説明
世界の風景を転換させたヴィジョンの変奏―ヘラクレイトスの火、パルメニデスの天上遊行、プラトンの魂の馬車、プロティノスの倒立する樹、アウグスティヌスの深淵としての記憶、アンセルムスの思考の母なる教会、そして、デカルトのコギト…“個”の経験が思想史に描いた波紋をとらえる。
目次
序章 ヘラクレイトスの仲間たち
第1章 ヘラクレイトスの“個”のモチーフ―「私」の果てしない深みと遍きロゴスと(「私」体験の掘り下げ;深いロゴス ほか)
第2章 “個”概念の変奏(プラトン『パイドロス』の変奏;アリストテレス『霊魂論』の変奏 ほか)
第3章 「思考としての私」という変奏(アンセルムスの「神の存在論的証明」―『プロスロギオン』第二章、第三章をめぐって;デカルト『省察』を読む)
補論 中世思想ノート―存在するのは実体だけか?(トマスとアントニウス;スコトゥス)
著者等紹介
坂口ふみ[サカグチフミ]
1933年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科比較文学比較文化修士課程修了。ミュンヘン大学にてPH.D取得。東京大学、東北大学、清泉女学院大学を経て、東北大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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メルセ・ひすい
2
師は、ロゴス=原素たる火は万物と相互転換する…人間の思考であるとともに、宇宙を支配する原理・主として公共の交流・説得・娯楽・支配等々の手段としての言論・深い理・同時代のブッダの無我・無常・全体を司るもの即ち、ロゴスを探求しその力と限界を熟知し、それを操る術を極めようとした。最初期に世界原理としたギリシアの哲人ヘラクレイトスからデカルトまで、「私」という経験の物語。絶えず流動する世界を根幹でつなぐのがロゴスである中世キリスト教のロゴス重視の伝統とあいまって、近代にかけて思考・意識としての「私」の発見。 2012/12/08
左手爆弾
1
読むものの教養や知性が試される。後半の論文は学術論文のスタイルで書かれているものの、前半は脚注などないし、引用符も最低限。読む側がある程度わかっていなければどうしようもない。そういう意味で本当にレベルの高い本である。全体のテーマとしては「ロゴス」と「個」である。古代から中世にかけての思想が紡がれる。時にはブッダや老子など東洋の思想家の話にも飛ぶ。やはり教養がないと読みこなすのは難しい。御年80歳になられる筆者の達人技といったところであろうか。内容は頭に入らなかったが、その達人技を堪能することはできた。2013/02/17