出版社内容情報
迸る一夏の甘い夢
マルメラは小さな箱をみつけた
カンザスには古い河があったろう、そこで
箱の中身は仔犬の魂だった
父は仔犬を見ると必ず「のらくろ」と呼んでいた…
おまえはヘミングウェイを知っているか
僕は16歳で知った、ジョン・ウェインの親戚だ
マルメラもその頃知った
マルメラマルメラと教室で騒いでいたが
そいつがマラルメだと気づいて
どうでもよくなった、そんなへんな名前のやつは
カンザス、カンザス、唾の詩、詩の唾…
アレフのよだれが詩集『SUMMERTIME』からSの文字を消した
以後『アマータイム』と呼ばれるサタンの書には緑色の血が染みつくことになる
トッゲ・ド! ストゴド!
【著者より】
私はタイポグラフィックな紙面構成を徹底すべく、
テクストの最終的な構築に躍起になった。
見開き二頁。この単位で、詩形式の音楽的かつ視覚的な構図を整える。
活字の大きさを極端に変えてみる。
大きな文字と小さな文字が混在する頁上に、
傍線、見せ消しといった手作業の痕跡が入る。
テクストが興奮しているのが判った。
【著者略歴】
松本圭二(まつもと・けいじ) 詩人。フィルム・アーキヴィスト。
1965-。早稲田大学第一文学部中退。2006年、『アストロノート』(「重力」編集会議)で萩原朔太郎賞受賞。
他の詩集に、『ロング・リリイフ』(七月堂、1992年)、
『詩集』(私家版、1995年)、『詩集・未製本普及版』(アテネ・フランセ文化センター、1996年)、
『詩集工都』(七月堂、2000年)、『詩篇アマータイム』(思潮社、2000年)。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
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8
多声的なレイアウトのなかで、ぶっきらぼうに軋みあい重層化する言葉の回転運動に共振し、モーターが回りはじめ、移動がはじまる。それはまるで映画のように美しく、そう、映写機もまた動いているのだ。フィルムはまるで黒い川で、「詩集のなかには川が流れている」。つまりすべては詩であるのだから、そこに満ちる雑多な光に目を閉じてはならない、一冊の美しい書物の到来を待とう。2018/08/09
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8
大量の詩をひとつの書物として再構成すること。圧倒された。2017/11/03
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4
脚注の小さな文字が異様に長い行になって垂れ下がっている。その柔らかい髪は娘のものだろうと思うと払いのけることがためらわれた。膝の上で眠りかけた彼女を揺らさぬよう、私は遠いところでそっと頁をめくった。「あなたの詩集のなかには川が流れている」と妻は言った。たぶん何を言えばいいのかわからなかったのだろう。しかし書物はどのようにでも読まれる。 (53ページ)2018/03/04
TOMYTOMY
3
断片の集約、とんでもない世界に陥れられる。 買うしかない。読み直すしかない。2018/03/20
2
映画のモンタージュ、あるいはウィリアムバロウズのカットアップ、今であればヒップホップのサンプリングと言っていいかもしれない。どちらにしても詩人がもっとも敵意を燃やしているのは詩の「音楽性」と言っていいかもしれない。それが、視覚のレイアウトによって絶えず切断されて、すぐさま粉砕されている。ただ、『詩篇アマータイム』の命がけの飛躍(=バンジー)が『アストロノート』の散文的崩壊を加速させているのもまた事実であろう。ここが一つのターニングポイントであると言える。2021/07/11