内容説明
二十世紀トルコを代表する詩人ヒクメットが、幻想的に、悲しくも美しく綴る愛と自己犠牲と希望の物語。トルコ語原典より初訳。
著者等紹介
ヒクメット,ナーズム[ヒクメット,ナーズム][Hikmet,N^azim]
1902年オスマントルコ帝国領サロニカで名門の家系に生まれる。当時英仏伊希による分割の動きに曝され、国家としての存亡の危機にあったトルコの救国抵抗運動に参加するうちに社会主義思想に共鳴。ソヴィエト東洋勤労者共産主義大学に学び、帰国後社会主義革命運動に身を投じる。1938年に反体制派として投獄され、国際的な支援を得て50年に出獄するまで獄中生活を送る。翌51年にソヴィエトへ亡命。1963年6月3日モスクワにて死去
石井啓一郎[イシイケイイチロウ]
1963年東京生まれ。1986年上智大学外国語学部イスパニア語学科卒業。専攻はスペイン文学、ロマンス語言語学、イスラーム学、地中海圏における比較思想
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感想・レビュー
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きゅー
10
ペルシアの伝説的な物語をヒクメットが自由に解釈して描きあげた戯曲。登場人物は女王メフメネとその妹シリン。そしてシリンを愛する絵師フェルハドの3人。タイトルこそ『フェルハドとシリン』だが、物語においてはメフメネ・バヌの存在が最も大きい。妹を救うための自己犠牲に一瞬の迷いもなく、フェルハドを愛してもそれを自分のうちに留め隠す忍耐を持っている。シリンとフェルハドが愛し合っていると知ったときも心を押し隠し、妹を思いやる。メフメネがそうであるように、やがてフェルハドも己の欲望から解き放たれる。2021/10/28
myung
1
病気の妹を救うために、自らの美貌を妹に与えた姉メフメネ・バヌと、与えられた妹シリンが、同時に一人の男フェルハドに恋をする。序盤を見ればなるほどよくある悲劇的な恋の物語かと思われるが、後半にメフメネ・バヌがシリンを与える条件としてフェルハドに出した、水を引くために山を穿つことを提示した段階から、話は単純ではなくなる。山を穿ってから十一年ほど経ったあたりから、あらん限りの美辞麗句でシリンを讃えたフェルハドも聖人のように扱われ、全人類的な救いを、自らの事業に見出すようになる。2013/03/18