内容説明
菜飯屋の春秋には、人との出会いや縁を育むたましいの処方箋(レシピ)が綴られている。
著者等紹介
魚住陽子[ウオズミヨウコ]
1951年埼玉県に生まれる。1989年「静かな家」で第101回芥川賞候補。1990年「奇術師の家」で第1回朝日新人文学賞受賞。1991年「別々の皿」で第105回芥川賞候補。1992年「公園」で第5回三島賞候補、「流れる家」で第108回芥川賞候補。2000年頃から俳句を作り、『俳壇』(本阿弥書店)などに作品を発表。2004年腎臓移植後、2006年に個人誌『花眼』を発行(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ぶんこ
66
看板も出さない小さなお店で、主に野菜を丁寧に扱った料理を出す。お酒が主体で無い夜だけ開けているこんなお店。料理嫌いの我が夫婦、近くにあったら常連となりそうです。ガサツなサヤを「好き」と言える夏子の優しさに驚き。ひとまわり年上の水江さんとの上品な付き合い方に感嘆。特に豪雨の東北旅行での女二人旅での二人の品のある佇まいには考えさせられました。俳句をされてるからでしょうか、季節感に溢れた話しぶり、言動の数々がため息が出るほど美しい。襟を正した生き方に、しみじみとした和みを与えていただきました。2016/08/21
Rosemary*
55
装画に惹かれ手にしました。旬の野菜を中心に丁寧に支度された菜飯屋さん。殊更豆には特別な想いもある。店主、夏子の周りの人たち。ドラマチックな展開がある訳でなく、滋養のスープを味わうがごとく心に沁み入るお話。人生の折り返しを慈しむしみじみと心の機微をゆったりと堪能した。2016/02/14
幸坂かゆり
44
人生は出会いと別れを繰り返す。齢を重ねると自分の存在のか細さと先の見えなさに不安が忍び寄る。そんなとき心を許せる誰かが並走してくれたらどれだけ心強く感じることだろう。素朴な菜飯屋を営む夏子と店で月に一度句会を開く年上の水江。本音を語りながらもユーモアを交えた会話、依存ではない親和的なふたりの関係は憧れの友情の姿だった。作中様々な登場人物と触れ合い、表れる口惜しさも憎しみも描き切ったのは日常を磨き抜かれた台所のように丁寧な魚住さんの見事な筆致でした。爽やかでつんとする読後感。素晴らしい本でした。2016/07/13
むぎじる
41
お酒の用意はあるけれど、あくまでも季節のお菜と飯を売る店。看板を出さず、ひそやかに営業している菜飯屋春秋(なめしやしゅんじゅう)の店主夏子をめぐる物語。春秋とは、年月や歳月という意味もあるそうで、特別大きな事件が起きたり謎を解決するような派手さがない代わり、人が人として生活を営んでいくために必要な丁寧さや、他人と関わることによって生まれる面倒さとそれを跳ね返すような豊かさを感じる。きりりとひきしまった気性の一回り年上の友人水江や、奔放なサヤや、さまざまな登場人物がいい色を出していいる、艶やかで大人な小説。2017/10/29
田中寛一
36
夏子の菜飯屋の雰囲気がとても良かった。寛いで美味しいものがいただけそう。作者も俳句作品を発行するほどで、この作品の表現も味わいのある言い回しがあり、とても気に入った。一人になって営む店だが、お客さんや友だち、俳友などとの繋がりで、助けたり助けられたり。料理が出てくるたびに食べたくなる。胡瓜の雷干しというのが出てきてネットで調べながら、自分でもやって三杯酢で料理してみた。小説ともども味わい深かった。2016/08/10