内容説明
寂しさは惨めだろうか―流れ去るしかない生命の煌めきと翳りを水の模様のように描いた物語。
著者等紹介
魚住陽子[ウオズミヨウコ]
1951年、埼玉県に生まれる。1989年「静かな家」で第101回芥川賞候補。1990年「奇術師の家」で第1回朝日新人文学賞受賞。1991年「別々の皿」で第105回芥川賞候補。1992年「公園」で第5回三島賞候補、「流れる家」で第108回芥川賞候補(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
357
表題作を含む3つの中編小説から構成される。魚住陽子は初読だが、その小説空間の印象からは堀江敏幸を想起させる。この人は作家としてのスタートが遅かったようで、デビューは48歳の「静かな家」、そして本書は作者63歳の作品。どうりで、いずれの主人公たちも初老から老境に入ろうという人たちばかり。ただし、文体は瑞々しく、それでいて余情の漂うものだ。文中に「私にとって俳句は、ずっと以前に諦めていた水の模様を写し取る魔法のようだった」という表現があるが、それはまさにこの作家の紡ぎ出す小説世界そのものに他ならない。2017/07/17
クリママ
48
表題作含む3編の中編。3編とも作者と同年代の60代の男女。旧家を継いだ次女とその息子夫婦。心の病から退職し俳句のサークルに属し避暑地で暮らす夫婦。夫を亡くし一人で古い家に住む女性。人生のある時期を切り取ったもので、取り立てて出来事はないものの、答えの出ない問いを投げかけられているように重い。表題作、まさに水の出会う場所の描写が驚くほど新鮮で、けして明るくはない文中に一筋の光が差すようだ。声に出して読みたくなるような俳句も多い。種々の植物名が漢字で記されているのも好きだ。すごいのを読んでしまったと思った。2023/06/22
Ikutan
45
初老の男女が主人公の三つの物語。五感を刺激してくれる豊かな表現が魅力的ですね。特に『緑の擾乱』の音を粒子と捉えるところなど上手いなぁと。沢山の植物も出てくるので、梨木さんの作品の様に検索しながら読み進めました。家やお墓の相続や跡取りという問題。個人が尊重される最近でも、まだまだ私の身近にもありますね。『水の出会う場所』は、妻と俳句を嗜む夫の淡い繊細な恋心を描いた作品。『水の上で歌う』では、知人と同居することになった寡婦が親友との日々に思いを馳せる。寂しさは惨めだろうか。帯の言葉が染み入る静かな作品でした。2015/05/26
竹園和明
39
静かな湖面を風が僅かに掠めるような、人の心の繊細な動きを巧みに描いた秀作。3篇の中編作が並び、どれも中高年の人々が主役。若い人のように何かに驀進するパワーはない代わりに、相手を慮りながらも惑うシニアの心の動きを丁寧に描く。情景描写もワイドレンジな映像を見るようで、その広角な感じが堀江敏幸の捉え方に似ている。各話とも物語としての決定的な結論はないが、そもそも我々の日常自体、何事にも必ず結論が付いて回るわけではないだろう。そこを掬い取った仄かな雰囲気が妙に馴染む作品だった。2018/09/28
KEI
31
表題作を含む3編の中編。どの作品も初老の揺れる心の描写が上手い。とりわけ何かが起こるわけでも無い平凡に見える日常の中にある棘の様な異物を静かな文章で描かれていた。【緑の擾乱】旧家を姉を追い出す様にして継いだ次女と歳の差婚の息子夫婦。【水の出会う場所】水を怖くなる鬱となり避暑地で暮らし友人や妻と吟行をし、心の中で他の女性に恋をする男。【水の上で歌う】夫を亡くし庭のある古い家で暮らし、過去の友人に囚われる女。作者が俳人との事で、季語や挿入される俳句、風景描写が美しい。どこかに死が隠されている様な作品だった。2023/12/23