内容説明
「私は、お肉は食べないの」ある日突然始まった彼女の菜食、すべてはそこから始まった。韓国最高峰の文学賞、李箱(イサン)文学賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
trazom
137
初めてハン・ガン氏を読む。ノーベル賞の選考理由「彼女は、心と体や、生と死の関係についてユニークな意識を持っている。詩的で実験的な文体は現代の散文文学における革新的存在といえる」を納得する。動物的な力の対極として木(植物)があり、それを象徴する形で菜食主義がある。菜食主義者となった主人公と、それに当惑する(或いは全く無理解の)周りの人々を通して、家族(父娘、姉妹、夫婦)や社会など、現代の孤独や疎外を浮き彫りにする小説的手法は鮮やかだと思う。ただ、性的・官能的な描写を好まない私の趣味には合わなかったけれど…。2024/11/14
やいっち
124
「ごく平凡な女だったはずの妻・ヨンヘが、ある日突然、肉食を拒否し、日に日にやせ細っていく姿を見つめる」夫、「芸術的・性的対象として狂おしいほど求め、あるイメージの虜となってゆく姉の夫」、「変わり果てた妹、家を去った夫、幼い息子……脆くも崩れ始めた日常の中で、もがきながら進もうとする姉・インへ」という3人の目を通して語られる連作小説集。2024/12/04
藤月はな(灯れ松明の火)
118
「ノーブラでいたがるヨンへ」という文章から表紙の玉ねぎが乳房に見えて仕方ない(いきなり、下ネタでごめんなさい)。しかし、植物に帰ろうとする女性を描いたこの本で一貫しているのは韓国の家長父制の横暴さと賢母良妻を無言で強いる社会、それに押し潰されそうになる弱き者の悲痛と狂気の淵に立つことで得る悟りだ。ヨンへの「なぜ、死んではいけないの?」という問に無性に泣きたくなりながらも、嫌がる妻に無理に性交をいるヨンヘの夫や嫌がるヨンへを羽交い締めにして殴りつけてまで肉を食べさせようとする父親は頭がおかしいと思う。2017/06/16
lily
117
普通の人が見えないものを心で見ている人とか何かに取り憑かれてる人程観察対象としては面白い人はいない。韓国社会全体が激烈な競争に取り憑かれた人がだけが生き残る唯一の手段だから、そこから落ちた人は、また別の脅迫観念に取り憑かれるだけだ。しかし、失望、虚無の淵にいながらも、案外思いも寄らぬ出会いに救いの手が待っていてくれるものだ。2020/03/20
buchipanda3
110
これは何とも心を惑わされる、いや乱される小説だった。最初はホラーのように感じたが、徐々にその揺るがない何かが言わんとしている事に自分の中の原始的な感性が呼び覚まされるような覚束なさに囚われていった。それは日常では理性で誤魔化していたものだろうか。ヨンヘは世の抑圧に対して力的な対応はしないが、弱々しいのではなくむしろ頑なな生の強かさを保持する。まるで野に生きる植物のよう。花と化した義兄に本能かの如く姿を見せ、姉には己のまま生き貫いた姿を示す。それは従順でも柔和でも無欲でもなく、ある種の生の誇らしさと思えた。2023/10/04