内容説明
「私は、お肉は食べないの」ある日突然始まった彼女の菜食、すべてはそこから始まった。韓国最高峰の文学賞、李箱(イサン)文学賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
480
噂のハン・ガンに初挑戦してみた。評判に違わぬ、というか聞きしに勝る圧倒的なまでの作品世界の展開に、しばし茫然の体。本書は3つの連作中編から成るのだが、3作ともに作品の中核にいるのがヨンヘである。第1話の「菜食主義者」では、その夫が(語り手でもある)、第2話「蒙古斑」では義兄が、そして第3話「木の花火」では実の姉がそれぞれヨンヘを巡って、そして挙句にはその狂気に吞み込まれていく。ヨンヘの磁場は圧倒的なまでに強いのである。それが不条理の世界などではなく、あくまでも現実世界で展開するだけにやりきれなさが周縁に⇒2025/04/19
trazom
142
初めてハン・ガン氏を読む。ノーベル賞の選考理由「彼女は、心と体や、生と死の関係についてユニークな意識を持っている。詩的で実験的な文体は現代の散文文学における革新的存在といえる」を納得する。動物的な力の対極として木(植物)があり、それを象徴する形で菜食主義がある。菜食主義者となった主人公と、それに当惑する(或いは全く無理解の)周りの人々を通して、家族(父娘、姉妹、夫婦)や社会など、現代の孤独や疎外を浮き彫りにする小説的手法は鮮やかだと思う。ただ、性的・官能的な描写を好まない私の趣味には合わなかったけれど…。2024/11/14
やいっち
127
「ごく平凡な女だったはずの妻・ヨンヘが、ある日突然、肉食を拒否し、日に日にやせ細っていく姿を見つめる」夫、「芸術的・性的対象として狂おしいほど求め、あるイメージの虜となってゆく姉の夫」、「変わり果てた妹、家を去った夫、幼い息子……脆くも崩れ始めた日常の中で、もがきながら進もうとする姉・インへ」という3人の目を通して語られる連作小説集。2024/12/04
mako
126
自分の心の奥底まで下りていき、そこで息をひそめながら、けれども興奮し続けながら読んだ。そして奥底と思っていたところよりまだ先があることを知った読書体験であった。2024/10/10
藤月はな(灯れ松明の火)
120
「ノーブラでいたがるヨンへ」という文章から表紙の玉ねぎが乳房に見えて仕方ない(いきなり、下ネタでごめんなさい)。しかし、植物に帰ろうとする女性を描いたこの本で一貫しているのは韓国の家長父制の横暴さと賢母良妻を無言で強いる社会、それに押し潰されそうになる弱き者の悲痛と狂気の淵に立つことで得る悟りだ。ヨンへの「なぜ、死んではいけないの?」という問に無性に泣きたくなりながらも、嫌がる妻に無理に性交をいるヨンヘの夫や嫌がるヨンへを羽交い締めにして殴りつけてまで肉を食べさせようとする父親は頭がおかしいと思う。2017/06/16