感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
松風
21
以前、書評かなにかで知り、ずっと気になりつつ読めずにいた。最近、ビブリオバトルで紹介されて、こちらの新刊版を教えていただいた。期待以上。一作一作が味わい深く、大事に読んだ。2014/11/16
三柴ゆよし
18
この人のことは全然知らなかった。杉田久女門下の俳人で、小説では横光利一の弟子、生業は床屋。まずもって、その散文の精度に目を瞠った。技巧が勝ちすぎている部分もあるが、それこそ熟達した職人の剃刀のうごきを髣髴させる、切れ味の鋭さ。こういう散文の技術は、いまの日本には断絶してひさしい。特に床屋稼業に材をとった作品群。その精緻な散文のなかに仄見える幻想的なポエジーに、はッとさせられる。ある時期を境に書かれたのであろう私小説風の文章は、角がとれたのか腕が落ちたのか、なんとなく弛緩しているようで、いささか薄味だった。2016/12/17
りんか
3
ちくまの「名短編ほりだしもの」で読んで衝撃を受け図書館で取り寄せる。床屋の主のエッセイのような作品なのだがその文章がみごと。初期の「蝶」「炭」「薔薇」「椿」「指輪」は特に素晴らしく、精緻な彫像のように滑らかで陰影に富みひやりとした手触りまで思わせるが触れるほどに温まり肌に馴染む。作者は後記でこれらを「虚構の作」でありしらじらしいと書いているが、虚構であり一種の理想だから成しえたのだろう。作者自身の思い出話や後年の作品は「真実に近い」と言うだけに切れ味が鈍り像が滲むが、初期の作品だけでも読むに値する2017/11/24
モリータ
2
◆1942年協栄出版刊、1955年目黒書店刊、文庫版1955年角川文庫刊、2011年12月烏有書林刊(本書。文庫版を底本とし協栄出版版から拾遺編の9作品を、目黒書店版から「後期」を収録)。◆『名短篇ほりだしもの』(2011年1月ちくま文庫刊)に本書から初期作品4篇(「蝶」「炭」「薔薇」「指輪」)+1篇が収録。◆解説より:「床屋の仕事は父の手伝いで始めたわけだが、1936年に父が死んでから41年の廃業まで、桂郎は店主として店をまもった。その五年間に文壇へも進出を果たす。1937年、石田波郷主催の『鶴』(続2025/09/28
みかん
1
「名短篇ほりだしもの」で数編読み、絶対に全編読むと決めた。著者いわく「私の作文集。ほとんどが虚構の作」だが、それを知らなければ実話だと思ってしまうリアルさがある。自分は前期の作が好みで、「蝶」「指輪」「薔薇」「柏餅」はくり返し読んだ。繊細な感情表現と巧みな文章表現は、時間に追われる読書では味わいきれないものだった。2025/03/29