内容説明
昭和三十三年、茨城県水戸市千波湖畔―。子供たちが発見したのは切り取られた体の一部だった。このバラバラ殺人事件は、更に怪奇な事件へと変貌する。犯人の手掛かりを追って、舞台は、東京へ。ベテランと若手、二人の刑事が真相に迫る。「実際の捜査」を二十日間にわたって密着撮影した、140点以上の実録写真集!
著者等紹介
渡部雄吉[ワタベユウキチ]
1924年、山形県酒田市生まれ。写真家。1943年から写真家として活動。1950年に独立し、総合雑誌に作品を発表。1974年、日本写真協会年度賞を受賞など、国内外で賞を受賞。1992年、紫綬褒章を受章。1993年、死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
95
乙一の新作と思い『張込日記』で予約したら、届いたのは名前は同じだが数年前に出版された写真集だった。内容は知らないのに、写っているのは映画の一場面ではなく本当の刑事だとわかった。その目つきは、本物しか持ち得ないもので、写真はそれを見事に写していた。そして刑事の顔と屈託のない父親の顔を持つ男に惚れ込んだ。今回、乙一の手になる張り込み日記にはその凄みは欠けてしまっている。写真だけで語るものがある時に、文章はかえって邪魔をするのかもしれない。オリジナルのフランス版を是非とも手に入れたい。2015/01/17
fwhd8325
68
映画のスチールのような写真集ですが、これは本当の捜査状況を撮影したものだそうです。写真集にするにあたりある程度の構成演出はあったようですが、すでに撮影されている写真なので、そこから漂うものはとても生々しく、引きつけます。「昭和」ってキーワードでくくりたくないけれど、仕事って泥臭くてもかっこいい。事件の状況も必要最小限に綴られているところが、この写真集が本物の凄さを語っている。2024/06/09
かんちゃん
34
昭和33年1月。切断された親指と陰茎が茨城県で発見された。警視庁と茨城県警の合同捜査が開始される。本写真集は事件に迫る二人の刑事を追ったものだ。しかし、構成を練った乙一が伝えたかったのは事件そのものよりも「戦後日本」の姿だ。うどん一杯十円。山積みの捜査資料は全て手書き。狭い捜査本部は紫煙がもうもうと立ち込める。だぼだぼのスーツに鳥打帽、よれたコート。向田刑事の金歯や歯並びの悪さも昭和ならではだろう。雑貨屋?に並ぶ「ライオン新石鹸」も雰囲気がある。映画のような写真集、狙いはピタリと当たっている。2017/05/28
ぐうぐう
28
驚きの写真集。昭和33年に起こった殺人事件の捜査を取材し、撮影された数々の写真で構成されている。驚きはいくつもある。まず、事件捜査にこんなに密着して取材できるのか、ということ。捜査会議の緊迫した様子や、足を使った刑事の捜査風景など、ここには本物にしか醸し出せない臨場感がある。また、事件そのものの異様さだ。バラバラ殺人が、捜査が進むごとに意外な真相が明かされていく。まるで、清張ミステリのような事件なのだ。そして、何よりもここには、ひとつの時代の日本の風景がある。(つづく)2014/12/09
みみずく
26
写真家渡部雄吉氏が実際の捜査を密着撮影した実録写真集。写真の構成と文は乙一氏が担当。昭和33年、茨城県でバラバラ死体が見つかった。遺留品が東京下町の旅館に由来したことから捜査一課のベテラン向田刑事と茨城県警の若い緑川刑事が組んで捜査に当たる。この時代の俳優さんたちの顔が好きなのだが、この刑事さんたちなど市井の人々の顔も個性的で味わい深い。パソコンのない時代の本当に地道な調査・捜査の様子も興味深い。この事件の背景を通して時代の雰囲気も知ることができたし写真の持つイメージ喚起の力の大きさを改めて感じた。2014/12/14