感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
姉勤
31
旧共産圏と呼ばれる東ヨーロッパ、バルカン半島諸国の、夢の跡。新たな人類の幸福を吹聴したゆえの、重厚長大をもって豊かさを示した工場とモニュメント。宗教、慣習を切り捨てた、幾何学的なデザイン。誠実と堅実を願った銅像やモザイク画。豊かさとは個人の余剰。かつて理想の社会とされた共産主義への憧れ。実際は餓死ぎりぎりの大多数と贅を尽くした党幹部の生活。現在理想とされる脱炭素とSDGsの同じような構造。理想の名の下に規制され支払わされる増額分を、エコを標榜する大企業のCEOの懐に収まるシステム。20世紀の餓鬼道の再来。2022/01/27
haruka
26
旧共産圏、苦しみの遺産をめぐる。バルカン半島は旧ユーゴスラビアのスポメニック(戦争記念碑)の宝庫である。それらは憂いに満ちていて、虚無感に襲われてぞっとするのに目が離せない。平等という希望を材料に作られた共産主義は、20世紀の迷い道のなかで紛争の赤い血を流して倒れていった。社会主義が叶った先のユートピアは、世界で一度たりとも存在したことがない。今もあちこちに埋まったままの地雷、概念もそうじゃないか?共産主義だけではない、資本主義の先にある未来もこうならないとは限らない。廃墟が胸に迫ってくる写真集。2024/05/15
すけまる
15
旧共産圏国家の建造物を対象にした写真集。これはそこらの廃墟写真集とは一線を画す。建造物がユニーク(奇抜)すぎる。クリエイターはインスパイアを受けること間違いなし。ウルトラマンのブルトンや、エヴァンゲリオンの使徒を彷彿とさせるものばかり。SF映画やアニメ、ゲームなどのサブカル好きにも堪らない。しかしこれらは戦争の傷跡の上にあることを忘れてはならない。2019/11/01
組織液
13
バルカン半島に残る、共産主義時代の建造物の写真集です。どれもこれもこう…偏見も入ってるでしょうがその土地に根を張ったものに見えないんですよね。レーニンは「障害となるなら過去の価値のあるものも遠慮なく破壊しよう。そしてさらに素晴らしいものを打ち立てよう」みたいなニュアンスのこと言ってた気がしますが、その素晴らしいものがこれか…って感じがします。今となってはこれはこれで歴史的価値のあるものになってるんでしょうし、僕も魅力を感じますが現代日本でこれ建てるってなったら嫌だな()2021/08/10
カール
12
大戦後のバルカン半島を共産主義が覆った。彼らは各地にスポメニック(戦争記念碑)を多く建造する。スポメニックにはプロパガンダとしての側面がある一方で、様々なメッセージ性が施されていた。90年代以降共産主義国家の解体が進むと内戦や金属類を狙った略奪、市民による破壊等の被害を受けるが、未だスポメニックは残っている。この写真集は「脱線」を挟みつつ、バチカン半島の諸国に残る共産主義の残像を追った。巨大モニュメントの奇抜なデザイン性もさることながら、一部は維持もままならずに廃墟の姿を晒している。なんと儚い事だろう。2022/08/22