出版社内容情報
90歳。
透明なユーモアと
かなしみと、
不変の
みずみずしさ──
『食卓の音楽』から二十余年、
待望の第2歌集。
栞=
井辻朱美「〈世界〉化力」
松村由利子「焼きたてのパンの香りのように」
穂村弘「胸という一まいの野を」
・ゆびというさびしきものをしまいおく
革手袋のなかの薄明
・卵立てと卵の息が合っている
しあわせってそんなものかも知れない
・大文字ではじまる童話みるように
飛行船きょうの空に浮かべり
・星空がとてもきれいで
ぼくたちの残り少ない時間のボンベ
・止まりたいところで止まるオルゴール
そんなさよなら言えたらいいのに
2010年4月28日初版発行
2010年6月24日2刷発行
2010年7月29日3刷発行
2010年11月19日4刷発行
2011年11月25日5刷発行
2014年10月8日6刷発行
2017年7月6日7刷発行
2020年1月6日8刷発行
A5判並製カバー装138頁
かばんBOOKS
装幀/真田幸治
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yanae
66
古書カフェすみれ屋で出てきた短歌集。作品内で紹介されていた歌がとても素敵だったので手に取りました。とても素敵な歌集でした。まさしくあったかい幸せな風景を歌ったものから、身近にある「死」や「悲しみ」を歌ったものまで様々。あとがきは息子さんが書かれていましたが、杉崎さんは天文台に勤めていて、退職後に歌集を出されたそう。いわゆるおじいさん世代の人がこんなにかわいらしくて暖かい歌をよんでいるのにびっくりする。パンと蝉を題材にした歌が印象に残りました。他の歌集も読んでみたいと思います。2018/04/20
ぶんこ
63
「古書カフェすみれ屋」を読んで心惹かれ読みました。70・80代に書かれた短歌とは思えない瑞々しさと柔らかさに感動。息子さんが「疲れるほど人への気遣いばかりするような性格」から「陽だまりの特等席での幸せな晩年」をおくられたと知り、短歌にはお人柄が現れるなと思いました。歌集から温かな気が立ち昇るようで、これは手元に置いて、好きな時に手に取りたい。好きなうた「観覧車は二粒ずつの豆の莢春たかき陽に触れては透けり」「卵たてと卵の息が合っているしあわせなんてそんなものかも知れない」他、書ききれませんでした。2017/05/16
カフカ
54
著者70~80代の時に創作された歌。瑞々しくユーモアや温かみがあって、どこか達観している歌集だった。深く自分の心に共鳴する歌集に出会えてうれしい。「濁音を持たないゆえに風の日のモンシロチョウは飛ばされやすい」、「微粒子となりし二人がすれ違う億光年後のどこかの星で」、「晴れ上がる銀河宇宙のさびしさはたましいを掛けておく釘がない」、「三月の雪ふる夜にだす手紙ポストのなかは温かですか」、「そのベロはなんとかおしよ成人の日の和服着しペコちゃん人形」、「起立性貧血症の薔薇だからきゅうに抱きあげたりはしないで」2023/11/22
まこみや
52
日々の生活の中のひとコマが生命や自然や宇宙の神秘の一瞬と触れる。剥き出しの激しい感情を歌うのではなく、ウイットに包んだ緩やかな気分を歌う。しかしその気分ははかないけれど揺るぎないしなやかさをもっている。2025/02/06
あや
48
昨秋父が亡くなった時いとこ一家が弔問に来てくれた時にいとこにおすすめされた本。読んで良かった。あとがきをご子息が書かれていて作者は故人。70代80代の時の作品という。かばんに所属し、かばんの有志により選歌された歌集だという。 春眠より覚める私はチョコレートのカシュウナッツのように曲がって/噛むほどに五月の風はふいてくるセロリーは白い扇状台地/蒸しタオルのおれを挟んでコードレス電話のような床屋の夫婦/どんな小糠雨よりうつくしい朝のセロリーに振りかける塩2024/04/21