感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
泰然
34
宙にある堅牢な思考信条体系の城に、吊り階段を作る。英国NHS国民保険サービスの司法精神科医の臨床事例を通して「邪悪な怪物」の存在を理解し共感するための視点へ導く。連続殺人犯、放火犯、小児性犯罪者など、残稿で絶望的でしかない人生の中にふと表れる「変化」。科学の緻密性と英国人文学のインテレクトさを通して、警備病院の音が聞こえてくるような描写の向こうから、もしも「運に恵まれなければ」我々もその一人になったかもしれなかったと提起し、人が心を通わす意味を問う。メンタルは自助が前提の主流社会の中で非常に秀逸な視点。2024/08/11
gtn
29
凶悪犯だとレッテルを貼るのは簡単。思うに、地獄の様な境遇を封印し、全て他者の所為と責任転嫁する犯人が多いのは、現実を受け止めると、自己崩壊するから。だが、それでは、堂々巡りから抜け出せない。犯人に勇気の一歩を踏み出させるのが、著者を始めとするセラピーの仕事。ただし、加害者への偏見があれば、取り返しがつかないことが生じる可能性も。一方、一見、サイコパスに見えても、丁寧に関われば、異なる一面を引き出せることを著者は示唆する。2025/01/02
くさてる
24
暴力犯罪者専門のセラピストであり精神科医である著者が出会ってきたさまざまな犯罪者について語る一冊。連続殺人者、児童性愛者、ストーカー、幼児虐待者……と正直読むのが辛くなるような内容の犯罪が語られる。個人的にいちばん怖かったのはストーカーの女性の章で、これはもうだめだ……と力が抜ける思いになった。けれど、どの章でも共通しているのは、犯罪者を単なるモンスターとして扱うのではなく、けして自分とは無縁ではない人々として接する著者の姿勢。なので、ネガティブなだけではなく人間を信じる思いにもなれる一冊でした。お勧め。2025/05/07
tom
21
標題に「悪魔」という文字、サイコパスがネタかと思い、借りてくる。でも、副題は「司法精神科医が出会った狂気と共感の物語」。この本は、まさしくその通り。さまざまなケースが記載されている。登場する人の多くは、精神科医である著者が、精神的な問題を抱える人を収容する刑務所で出会った「加害者」たち。著者は、技術を駆使して語らせ、彼らに自らの行動を理解させ、生き延びる道筋を読み解かせる。精神科医のできること、すごいと思う。巻末にある「サム」、統合失調症の彼の心を開くグループワークは圧巻。淡々とつづられるけれど胸を打つ。2024/10/21
DEE
14
殺人や性犯罪、ストーカーなどで刑務所に入りながらも、精神的な問題も同時に抱えている11人とのセラピー。著者は司法精神科医。 精神科医は本当に精神異常を見抜けるのかという「ローゼンハン実験」を思い出す。セラピーが非常に有効な場合もあれば、自死を選ぶ者もいる。何が正解なのか、もしかしたら正解なんかないのかもしれない。2025/04/06