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内容説明
数奇な宿命を背負って生まれた美しい少年、クインテン。古城に住むさまざまな人間たちと触れ合う中で成長しながら、見えない手に導かれて少年は旅立つ。絶頂、比類なき終わりへ向かって。
著者等紹介
ムリシュ,ハリー[ムリシュ,ハリー][Mulisch,Harry Kurt Victor]
1927年7月29日、オランダ、ハーレム生まれ。オーストリア・ハンガリー帝国生まれの父親は第一次世界大戦を将校として戦い、戦後、アムステルダムに移住。第二次世界大戦下には没収したユダヤ人の財産で運営される銀行の頭取となる。対独協力者として戦後、2年間の禁固刑。戦後のオランダを代表する三大作家の1人で、ノーベル賞候補にも名を連ねる。オランダでは全著作に対するP.C.ホーフト賞(1977年)をはじめ、数多くの賞を受賞。オランダ王国の受勲者でもある。77歳の現在も執筆活動の他、テレビ出演、海外での朗読会等、精力的に活躍をつづける。アムステルダム在住
長山さき[ナガヤマサキ]
1963年1月6日神戸生まれ。関西学院大学大学院文学部修士課程修了。専攻文化人類学。1987年、オランダ政府奨学生としてライデン大学に留学。以後、オランダに暮らす。アムステルダム在住(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
19
面白かったです。運命の子クインテンを中心に話が進みます。上巻からなのですが、神学だけにとどまらず天文学や音楽、政治学、哲学、建築学など、登場人物たちの会話の範囲が幅広いので、モーゼの十戒は抽象的、衒学的な意味で取り返されるのかと思っていましたが、結構物理的でした。それでいて最後は抽象的で神話的、聖書的でもありました。偶然は必然で、必然なことは偶然とでもいうように天使様の目的に向かって物語が収束していくさまは圧巻です。最後、オノが地上に一人残されたのは人間の無力さと可能性を表しているのかなと考えました。2016/02/17
春ドーナツ
15
その文章はDNAみたいに折り畳まれた未知数の暗示を含む。それらはパラフレーズによって有機的に結ばれているのだろう。気まぐれな運命ではなく、予定調和な天の配剤として。けれども「考えと石ころのように、あまりにもかけ離れていた」(52頁)密やかな織り目なのだ。***「漂石は地面のなかから上にでてきて、彼の腰の高さがあった」(270-271頁)オベリスクと同様に頻出する「漂石」とは何だろう? A:氷河に運ばれた岩石が、氷河の解けたあとに残ったもの 「真実」はパラドキシカルな連鎖の最果てに、ゆっくり引き寄せられる。2019/03/09
きゅー
15
聖書学、歴史学、自然科学、政治学といった様々な分野を内包して怒涛のごとく筋が展開される。私達の人生におけるほとんどの出来事が偶発的で意味を持たないものかもしれないが、この作品において意味を持たないものは何も含まれていない。あらゆる出来事が意味のつながりで輝いており、結末での物語の収斂のされ方は尋常ではない。「すべての女性が自分の母親なのだ!」という叫びに至るまでの長い道筋がここに極まる。受け身にならずに物語のディテールがどのような意味を持ってくるのか考えさせながら読ませる力量は素晴らしい。非常に愉しめた。2015/01/07
umeko
7
ラストは圧巻。ジクソーパズルのように全てがぴったりとはまるからと、「必然と偶然」という永遠に解けない問題の多くのピースを渡された気分です。夢中になって読みました。2012/05/31
rinakko
5
天使の報告、「厳密に必要なこと意外なに一つ起こらなかった――」。上巻は三人を中心とする心理小説とも読め、下巻は運命の美貌の少年クインテンの成長と冒険を描く小説とも読める。聖書が題材となっているにも関わらず、宗教や信仰の話には偏らず、美術史や哲学、音楽理論などの話もふんだんに盛り込まれ、それに何より何と言っても!マックスとオノの深い友情、アダをめぐる各々の葛藤、マックスのナチへの憎しみ、アダの母親ソフィアの存在、不可解な少年クインテンの成長…と、物語の流れそのものがとても面白い。2010/09/17