出版社内容情報
海軍大佐でありながら、永久平和を願い軍備撤廃をめざした水野広徳。風刺精神を極限まで高めて川柳をつくり続けた鶴彬。トルストイの思想に共鳴し、兵役拒否を貫き通した翻訳家・北御門二郎。陸軍参謀本部で軍部への怒りを日記をつづった作家・中井英夫。内心の自由を求め、ひたすらに思想と学問を深めていった歴史学者・家永三郎。
戦時下、彼らは日本という国に、そしてそこに生きる日本人に何を求めたのか。
第1章 反戦・反軍主義の元海軍大佐──水野広徳
第2章 反骨の川柳人──鶴彬
第3章 兵役拒否を貫いた人──北御門二郎
第4章 文化を愛するがゆえの怒り──中井英夫
第5章 内心の自由を求めて──家永三郎
私たちはいま、大きな岐路に立っています。戦争放棄を世界に宣言した日本国憲法を、戦争のできるように変えようとする気運が高まっているからです。戦後の日本は日米安保条約により、沖縄に膨大な軍事基地が作られ、朝鮮戦争やベトナム戦争などの兵站基地となりました。日本自体が「浮沈空母」と呼ばれています。(中略)
戦後の日本が「平和」であった、というのは事実ではありません。「戦争」と「平和」は関係概念であり、相手との関係性でいえば、日本は「敵国」ですから、「戦争国」になります。「平和国家」でなかったというゆえんです。
それでも憲法第九条は、米国への軍事的従属を抑制する役割を演じてきました。それがいま、日米両国政府にとって邪魔になっているのです。そのための第九条改定ですが、軍備拡張や海外派兵は当然、アジア近隣諸国の不信感を募らせ、確執を生み、緊張感を高め、相互の安全保障の障害になるでしょう。けっして平和のためには役立ちません。
こういう事態になることを阻止するのが、かつて侵略戦争を起こし、いままた戦時体制にある日本国民の責任でしょう。しかし、昨今の国民は、小型ヒトラーのような軽薄な扇動家に踊らされ、抵抗精神、批判的理性を骨抜きにされています。小泉純一郎や石原慎太郎の支持率の高さ、またいわゆるイラク人質事件に対するバッシングはそのあらわれでしょう。日の丸・君が代の法制化、有事法制の成立、教育基本法改定の動きは、国民の国家主義的画一化が進んでいる証拠です。民主主義に避けられない衆愚性と集団ヒステリーは、草の根ファシズムのメダルの両面で、民度の計測計といえます。
このような主題に沿って、私は「国家に抗した」五人の人びとを取り上げました。いずれも過去のことですが、彼らが対決した課題、つきつけられた問題は、いまも古くはなっていません。いや、いまこそ、そのすぐれた思想や行動から学ぶものが多いはずです。
戦時下―国家のウソに騙されず、日本の未来を見すえた人びとがいた。海軍大佐・水野広徳、川柳人・鶴彬、翻訳家・北御門二郎、作家・中井英夫、歴史学者・家永三郎。彼ら5人は日本という国に、そして、そこに生きる日本人に何を求めたのか。現代の「戦争」と「平和」にも通じる力作。
内容説明
海軍大佐でありながら、永久平和を願い軍備撤廃をめざした水野広徳。風刺精神を極限まで高めて川柳をつくり続けた鶴彬。トルストイの思想に共鳴し、兵役拒否を貫き通した翻訳家・北御門二郎。陸軍参謀本部で軍部への怒りを日記につづった作家・中井英夫。内心の自由を求め、ひたすらに思想と学問を深めていった歴史学者・家永三郎。戦時下、彼らは日本という国に、そして、そこに生きる日本人に何を求めたのか。
目次
第1章 反戦・反軍主義の元海軍大佐―水野広徳(反抗心と同情心;軍事的合理主義の時代 ほか)
第2章 反骨の川柳人―鶴彬(川柳にあらわされた風刺精神;不屈の創作意欲)
第3章 兵役拒否を貫いた人―北御門二郎(トルストイとキリスト教;トルストイとキリスト教の導きのもとに ほか)
第4章 文化を愛するがゆえの怒り―中井英夫(陸軍参謀本部で書かれた日記;文化の熾烈な擁護者として ほか)
第5章 内心の自由を求めて―家永三郎(国民統制のための教科書;教科書検定の内容 ほか)
著者等紹介
新藤謙[シンドウケン]
1927年、千葉県生まれ。文筆家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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