内容説明
ソ連軍の侵攻を背景に、村と家族を奪われた父の苦悩をとおして、破壊と混乱のなかに崩れゆくアフガン社会を浮き彫りにする、映像感覚あふれる現代小説。
著者等紹介
ラヒーミー,アティーク[ラヒーミー,アティーク][Rahimi,Atiq]
1962年、アフガニスタン、カーブルに生まれる。1984年フランス、パリに移住。ルーアン大学、ソルボンヌ大学の映像学科を卒業し、映像作家としてテレビ局のドキュメンタリー作品を制作。1999年フランスで小説第一作『灰と土』(ダリー語。2000年にフランス語訳)を発表。欧米を中心に話題を呼び、すでに20か国語に翻訳されている。2002年、第二作Les mille maisons du r^eve et de la terrerur(Hez^ar kh^ane‐ye kh^ab‐o ekhten^aq)でフォンダシオン・ド・フランス賞を受賞
関口涼子[セキグチリョウコ]
1970年、東京生まれ。詩人。日本語とフランス語で著作活動を行なうと同時に、吉増剛造をはじめとして、現代詩人・作家のフランス語訳に努めている
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
たまきら
47
推薦文を読んで手に取った、アフガニスタンの現代文学です。私が知っていることと、描かれている舞台設定がまったくリンクせず、戸惑いながらも読み進めました。けれども、文章自体の描写は美しく、乾いた大地の中でまっすぐ立つ誇り高い男性の姿が目に浮かびました。同時に暴力の連鎖も…。訳者の後書きが背景を補足してくれているので、こちらを先に読んだ方が理解は増したかもしれません。でも、砂埃の中で目を凝らすような、読書時間をもてたのは悪い体験ではありませんでした。2025/05/02
きゅー
13
爽やかとも言えるような文体の奥に烈しいものが詰めこめられている。登場人物の動きはほとんどなく、全編がゆるやかに流れているのだけれど、それは穏やかなものではなく、あまりの衝撃に呆けた老人の主観を表現しているかのようだ。戦争の痛ましさをあらわな情景からではなく、一人の人間の苦悩から描き出すことにこの本の骨子はある。人びとが次々と殺されているような時代だからといって愛する人の死が軽くなるものではない。個人的な悲しみはつねに還元不可能な何ものかだ。翻訳者、関口さんの情熱が強く伝わってくる一冊。2015/05/26
秋良
7
どこか戯曲めいた作りの小説。戦争も犠牲も同じ論理というのがズシっとくる。戦争(向こう側のもの)も犠牲(こちら側のもの)も同じものである。名誉のための復讐は戦争と同じだという論理に解釈した。愛する人を亡くす悲しみと、イスラム世界における名誉を傷つけられた痛みを混同するのは危険なことだと思うんだけど。2018/09/27
ぶらり
7
“憂愁”をテーマに読書をして、世界中の虚脱や厭世、哀愁や寂寥と出会い、そうした“憂愁”そのものに共鳴したり、それぞれの作家の“憂愁”の背負い方、消化の仕方に共感したりしているこの頃。ときに、幻想小説や滑稽な世界に迷い込むが、それはそれで楽しくもある。しかし、この本は、もっと現実のシリアスで単純な消化しきれない事件に巻き込まれたようなもの。老人ダスタギールの悲しみは現実であり“憂愁”では片付けられないが、どう深慮しても、彼も私も無力であることの悲哀しか浮かばない。2011/05/30
Porco
3
フランスに亡命したアフガン人作家のデビュー作。舞台はソ連の侵攻を受けているアフガニスタンです。同作者の『悲しみを聴く石』と同じく、シンプルでありながら豊かな、良い小説でした。2015/02/17