出版社内容情報
編集顧問:岡田善雄(千里ライフサイエンス振興財団)、高久史麿(自治医科大学)、
寺田雅昭(国立がんセンター研究所)、豊島久眞男(大阪府立成人病センター)
編集代表:大野典也・衛藤義勝(東京慈恵会医科大学)
遺伝子治療に関する論文の多くはこれまでにも専門誌に紹介されているが、これらの膨大な情報を体系的に整理したのは本書が初めてである。日本遺伝子治療学会の総力を結集した待望のハンドブック。
発刊にあたって
各種の先天性疾患、癌等の疾患が遺伝子のレベルで明らかになり、その治験が臨床的な
診断に積極的に応用されるようになったのは、1980年代に入ってからである。
さらに1990年代に入ってからアメリカで始まった人を対象にした遺伝子治療研究が、その
後広くヨーロッパ、一部のアジア諸国にも広がり、現在400近いプロトコールで4000人近い
患者が遺伝子治療臨床研究の対象となっていることは周知の如くである。
現在行なわれている遺伝子治療は、臨床研究という分野に位置づけられている事からも明
らかなように、まだ技術的に不完全で、開発すべき点が多い。
しかし21世紀には治療の新しいパラダイムとして遺伝子治療が発展・普及することは明ら
かで、現在はその基礎を固めている時代であると言って良いであろう。
今回エヌ・ティー・エスから発行されることとなった「遺伝子治療開発研究ハンドブッ
ク」では、まず先天性疾患、感染症、癌、循環器疾患等における遺伝子異常の病態を紹
介、引き続いて遺伝子治療についての概説、遺伝導入技術の紹介、各種生体内細胞への遺
伝子の導入、導入された遺伝子の発現の調節、導入の安全性、遺伝子治療プロトコールの
作成指針、各種疾患モデル動物を用いた遺伝子治療の実際についての解説などが順次行な
われており、動物実験から臨床的応用にまで実際に役立つ有用なハンドブックになってい
る。著者の方々は、研究、臨床の第一線にある方々であり、その内容も実地に役に立つも
のになっていると信じている。
わが国の遺伝子治療臨床研究が欧米諸国に比べて著しく出遅れており、このことはわが
国の医学・医療の将来にとって憂うべきことと考えているが、この本の出版が今後のわが
国における遺伝子治療に関する基礎的研究、さらにその結果の臨床応用を促進する有用な
手段の一つになる事を心から願っている。
平成10年12月
編集顧問代表
高久 史麿
目 次
第1章 疾患・臨床研究の実際
第1節 概 説 <衛藤 義勝>
1.遺伝子治療の臨床研究の実際
2.遺伝子治療の対象疾患ならびにターゲット細胞
3.遺伝子治療の実際とその問題点
4.わが国での遺伝子治療の臨床研究の体制とその問題点
第2節 各論--遺伝病
1.総 論 <衛藤 義勝>
2.単一因子性疾患
3.多因子性疾患
第3節 各論--感染症
1.総 論 <北村 義浩>
2.HIV感染症<松下 修三/松見信太郎/前田 洋助>
3.B型,C型肝炎 <宮村 達男>
4.EBウイルス感染症<北河 徳彦/高田 賢蔵>
5.ヘルペスウイルス <森 良一>
6.サイトメガロウイルス<岩崎 琢也/佐多徹太郎>
第4節 各論--癌
1.総 論<山田 尚/浅野 茂隆>
2.固形癌
3.血液・リンパの癌
第5節 各論--循環器
1.総 論 <森下 竜一>
2.虚血性心疾患,とくに冠状動脈狭窄性病変に対する血管形成術後の再狭窄
<馬目 佳信>
第6節 各論--その他
1.自己免疫性疾患<上阪 等/宮坂 信之>
2.アトピー<中村晃一郎/玉置 邦彦>
3.血管障害<森下 竜一/荻原 俊男>
第2章 遺伝子治療概要
遺伝子治療概要 <大野 典也>
1.はじめに
2.遺伝子治療の歴史的背景
3.医学・医療への組換えDNA技術研究の効用
4.疾患遺伝子の同定と治療
5.バイオテクノロジーと遺伝子治療:新しい製薬企業の創製
6.医療経済への波及効果
第3章 導入技術
第1節 総 論
1.総 説<香川 靖雄/遠藤 仁司/浜本 敏郎>
2.ベクター導入法
3.標的特異性--細胞特異的遺伝子導入法<島田 隆>
4.相同組換えによる遺伝子変異の修正
<内藤 泰宏/小林 一三>
第2節 各 論
1.ウイルスベクター
2.リポソーム
3.直接DNA
4.イムノジーン法 <清水 信義>
第4章 標的組織/細胞
第1節 造血幹細胞 <藤木 豊/小野寺雅史/中内 啓光>
1.はじめに
2.ヒトPHSCによる遺伝子治療の問題点
3.マウスおよびヒト以外の霊長類を用いた遺伝子導入実験
4.PHSCを用いた遺伝子治療例
5.将来の遺伝子治療に向けて
6.おわりに
第2節 末梢血細胞 <小野寺雅史>
1.はじめに
2.対象疾患
3.遺伝子治療のための末梢血T細胞の培養法
4.おわりに
第3節 筋肉細胞 <武田 伸一>
1.はじめに
2.骨格筋細胞/組織に対する遺伝子導入の対象となる遺伝子
3.骨格筋培養細胞/組織に対する遺伝子導入法
4.骨格筋細胞/組織に対する遺伝子導入における問題点とその対策
5.骨格筋に対する遺伝子導入の将来像
第4節 神経細胞 <小川 松夫>
1.はじめに
2.神経細胞および神経組織の特徴
3.神経系の培養
4.ベクターについて
5.神経疾患遺伝子治療実験の実際
第5節 血管壁細胞 <上野 光>
第6節 皮膚と遺伝子治療 <齋藤 敦/島田 眞路>
第7節 肝細胞 <金井 文彦/立石 敬介/小俣 政男>
第8節 癌細胞 <越田 吉一/山内 尚文/高橋 稔/佐藤 康史/新津洋司郎
>
1.はじめに
2.腫瘍細胞への遺伝子導入
3.おわりに
第9節 遺伝子導入細胞の選択・制御
1.選択遺伝子 <久米 晃啓>
2.抗癌剤耐性遺伝子 <杉本 芳一>
3.自殺遺伝子 <恵美 宣彦>
第5章 遺伝子の発現調節
特異的遺伝子発現のメカニズム<大川 宜昭/牧野 泰孝/田村 隆明>
1.序 論
2.プロモーターと基本転写因子
3.エンハンサーと転写制御因子
4.DNA上での制御シグナルの伝達
5.転写制御因子の活性調節
6.特異的転写を生み出す要因
7.特異的プロモーター
第2節 転写調節因子
1.HLH型転写因子 <影山龍一郎>
2.ホメオドメイン蛋白とホメオティック遺伝子群 <岡本 仁>
3.LIM/ホメオドメイン型転写因子群<岡本 仁>
4.からだづくりとHox遺伝子<高橋 淑子>
5.ZicとGli<有賀 純/御子柴克彦>
6.CREB<下村 敦司/萩原 正敏>
第3節 テトラサイクリンシステム <北村 義浩>
1.はじめに
2.原 理
3.手 順
4.応 用
5.問題点
6.おわりに
第4節 誘導・調節可能プロモーター(放射線感受性プロモーターEGR-1) <大野 典也
>
1.はじめに
2.前初期反応遺伝子群(immediate-early genes)
3.細胞増殖と放射線感受性遺伝子
4.EGR-プロモーター
5.EGR-プロモーターの遺伝子治療への応用
6.特異的な腫瘍細胞の殺戮
7.放射性同位元素による発現調節
8.ウイルスベクターでの発現検証
9.腫瘍細胞殺戮遺伝子の選択
10.おわりに
第5節 アンチセンス法による遺伝情報ノックアウト戦略法<横山 和尚>
1.はじめに
2.アンチセンス核酸の分子設計
3.第二,三世代新規アンチセンス核酸化合物
4.ヌクレアーゼ抵抗性
5.細胞膜透過性,ターゲッティング
6.送達システムの再評価
7.非アンチセンス効果
8.大量精製
9.おわりに
第6節 リボザイム技術 <桑原 知子/小関しおり/多比良和誠>
1.はじめに
2.リボザイムの細胞内での発現
3.新規RNAモチーフであるマキシザイム
4.マキシザイムの効果的な利用法
5.tRNAval配列が付加したマキシザイム
6.マキシザイムによるBCR-ABLmRNAの発現抑制効果
7.おわりに
第7節 単鎖抗体 <北村 義浩>
1.IgG抗体とは何か
2.単鎖抗体とは何か
3.単鎖抗体はどのようにして作製されるか
4.作製上の注意と問題点
5.単鎖抗体の遺伝子治療への応用
6.おわりに
第6章 安全性
第1節 総 論
1.概 説 <大野 典也>
2.安全性の実際--総論<長谷川 護>
第2節 各 論
1.ウイルスベクターの安全性<北村 義浩>
2.リポソームの安全性 <八木 國夫>
3.in vivoでの安全性
第7章 プロトコール--作成指針(症例付)
第1節 ADA欠損 <崎山 幸雄/有賀 正/川村 信明>
1.はじめに
2.アデノシンデアミナーゼ欠損症における遺伝子治療臨床研究の実施計画書
3.説明および同意書
4.北海道大学医学部附属病院の遺伝子治療臨床研究の実施計画に対する文部省・厚
生省の審査スケジュール
第2節 AIDS <松下 修三>
1.はじめに
2.プロトコール作成の経過
3.臨床治験としての遺伝子治療
4.今後の遺伝子治療の位置づけ
5.おわりに
第3節 腎 癌 <谷 憲三朗>
【参考資料】腎細胞癌に対する免疫遺伝子治療
--・期腎細胞がん患者を対象とするGM-CSF遺伝子導入
自己複製能喪失自家腫瘍細胞接種に関する臨床研究--
東京大学医科学研究所附属病院
第4節 肺 癌<藤原 俊義/田中 紀章>
1.はじめに
2.遺伝子治療臨床研究の名称
3.遺伝子治療臨床研究の目的
4.対象疾患およびその選定理由
5.遺伝子の種類およびその導入方法
6.これまでの当該遺伝子治療臨床研究に関する培養細胞,実験動物を用いた研究の
成果
7.安全性についての評価
8.遺伝子治療臨床研究の実施が可能であると判断する根拠
9.遺伝子治療臨床研究の実施計画
10.当該遺伝子治療研究に関連する国内外の研究状況
11.その他必要な事項 <正常型p遺伝子発現アデノウイルスベクター(AdCMVp)の供
給,保管および品質管理
.添付資料
.おわりに
第8章 ガイドライン
第1節 厚生省,文部省遺伝子治療臨床研究のガイドラインについて <島田 隆>
1.はじめに
2.厚生省の厚生科学会議から出されたガイドライン
3.文部省の学術審議会バイオサイエンス部会から出されたガイドライン
4.厚生省薬務局から出された遺伝子治療用医薬品のガイドライン
5.審査体制
6.おわりに
第2節 アメリカ・ヨーロッパ <大野 典也>
1.歴史的背景
2.アメリカのガイドラインの現状
【参考資料--アメリカ】
【参考資料--ヨーロッパ】
第9章 疾患モデル動物を用いた治療の実際
第1節 発生工学による遺伝性疾患のモデルマウスの作製法 <野田 哲生>
1.はじめに
2.トランスジェニックマウス
3.ノックアウトマウス
4.時期,部位特異的な変異導入法
5.おわりに
第2節 発生関係モデルマウス
1.Fyn欠損マウス <八木 健>
2.ニュートロフィンと受容体の欠損マウス<古川 美子/古川 昭栄>
3.HLH型転写調節因子群欠損マウス<影山龍一郎>
4.神経特異的POU遺伝子変異マウス<野田 哲生>
第3節 神経関係モデルマウス
1.ミエリン形成障害マウス
2.脳のレセプター関係
第4節 遺伝関係モデルマウス
1.フェニルケトン尿症<松原 洋一/長崎 裕/藤井 邦裕/高野 英昭/成澤 邦
明>
2.高チロシン血症モデルマウス<遠藤 文夫>
3.ニーマンピック病 <井田 博幸>
4.Krabbe病 <国府 力/乾 幸治>
5.GMガングリオシドーシス<山中 正二>
6.Sly病 <大橋 十也>
編集者からのメッセージ
遺伝子治療開発研究ハンドブック
ヒトの体は、約六○兆個の細胞から出来ている。その細胞ひとつひ
とつの中には核があり、その核の中にヒトの場合四六本の染色体が
入っている。染色体は、髪の毛のおよそ四万分の一の太さの螺旋状
に絡まった細い二本の糸から成り、長さは約二m程になる。この細く
長い糸がDNAという物質で、そしてDNAのほんの一部が遺伝子にな
っている。二十一世紀は遺伝子の世紀だと言われており、遺伝子治
療は二十一世紀に向けた新しい治療法である。
現在、アメリカを中心に遺伝子治療に関する臨床研究が進められて
いるが、現段階ではまだ技術的な問題が多く、特に日本における遺伝
子治療は欧米諸国に比べて著しく出遅れているといわれており、有効
な成果を上げるに至っていない。しかし、現在基準が厳しくハードルも
高い厚生省の認可を得られなくても、条件付きで大学内に設置した委
員会を通れば遺伝子治療を行っても良いという法案が検討され始め
るなど、国をあげての遺伝子治療を推進しようという空気が生まれつ
つある。
この様な背景の下、今回発刊された、日本遺伝子治療学会編「遺伝
子治療開発研究ハンドブック」はこの分野に関する本邦初の大型出
版であり、医学、薬学分野はもとより遺伝子レベルでの解明が期待さ
れる新しい生命科学分野等、多方面において活用されることが期待さ
れる。
本書は編集顧問代表の高久史麿先生(自治医科大学学長)以下こ
の分野で我が国を代表する百九十余名の執筆者により、、先天性疾
患、感染症、癌、循環器疾患等の遺伝子異常、遺伝子治療概要、遺
伝子導入技術の紹介、各種標的組織細胞への遺伝子の導入、遺伝
子の発現調節、安全性、プロトコール作製指針、日本・欧米における
ガイドライン、疾患モデル動物を用いた治療の実際等、現在の最先端
の研究成果について臨床への応用を視野に入れて編集されたもので
ある。
執 筆 者
編集顧問(五十音順)
岡田 善雄 (財)千里ライフサイエンス振興財団理事長
高久 史麿 自治医科大学学長
寺田 雅昭 国立がんセンター研究所所長
豊島 久眞男 大阪府立成人病センター総長
編集代表
大野 典也 東京慈恵会医科大学微生物学講座第教授・DNA医学研究所所長
衛藤 義勝 東京慈恵会医科大学小児科講座教授・DNA医学研究所副所長
編集幹事(五十音順)
浅野 茂隆 東京大学医科学研究所病態薬理学研究部教授・同附属病院院長
小澤 敬也 自治医科大学血液学講座遺伝子治療研究部教授
齋藤 泉 東京大学医科学研究所遺伝子解析施設助教授
島田 隆 日本医科大学生化学第二講座教授
御子柴克彦 東京大学医科学研究所化学研究部教授・理化学研究所脳科学総合研究センタ
ー発生分化研グループグループディレクター
編集委員(五十音順)
北村 義浩 国立感染症研究所遺伝子解析室主任研究官
谷口 克 千葉大学 医学部高次機能制御研究センター・免疫機能分野教授
野田 哲生 東北大学医学部教授・(財)癌研究会癌研究所細胞生物部部長
矢崎 義雄 東京大学 医学部第三内科教授
吉倉 廣 国立感染症研究所副所長
他執筆者 100名余