内容説明
第一次大戦下、英国で、アフリカで、苛酷な運命を生きぬいた男と女たち―。そこには、喜びと哀しみに満ちた愛があった。夢をつむいでゆくはずだった者たちの人生は戦いの無意味さに翻弄され、やがて真夏のアイスクリームのように溶け去っていく…。人生のはかなさを、詩情とユーモアで謳いあげる、ジョン・ルウェリン・リース記念賞の話題作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
179
第一次世界大戦のアフリカを舞台にした作品である。アイスクリームのように溶けていく 人生の儚さを 軽快な筆致で描く。 ゲイブリエル、フェニックス兄弟と、ケイリス との微妙な関係も 戦争に 弄ばれる。 あまりにも 呆気ない死が 戦争のやるせなさを 表している、そんな気がする作品だった。2018/05/16
ケイ
115
第一次対戦の激戦区は西武戦線。しかし、戦いは植民地のアフリカでもあった。本国での戦争が始まった途端に隣人が敵になる。An Icecream War 溶けてしまうくらい暑いアフリカ。アイスクリーム戦争と名付けられるようなくだらない戦い。そんな戦争の悲惨な日常でも心を踊らせることはあるし、命を落とすのは壮絶な戦いにおいてとは限らない。あまりにも不条理な理由での死。しかし、戦争とはそもそも不条理なものだ。シニカルでコミカルに戦争の悲惨と不条理が描かれている。どう感じるかは読者のそれぞれの読み方だろう。2016/04/12
まふ
109
WW1におけるアフリカの植民地でのドイツ軍とイギリス軍との「出前戦争」とでも呼べる戦いの物語。軍人の長男ゲイブリエルと弟フィリップは仲良し兄弟だが、第一次大戦の勃発とともに人生が大きく変わる。ゲイブリエルの新婚の妻ケイリスは情緒不安定になり、フィリップと肉体関係を持つ。農場主のフォン・ビショップ(ドイツ人)は国境を境に隣同士のアメリカ人のテンプルの農場を接収する。本国の戦争と異なり気合の入らぬ戦闘の結果はコブ一家を崩壊させてしまう…。戦争の空しさを抉った心にズシリと重い小説である。G1000。2023/11/29
NAO
77
アフリカにはヨーロッパ各国の植民地が入り乱れているため、第二次世界大戦中、本国の戦争に準じてアフリカでも戦闘が繰り広げられていた。だが、その戦に駆り出されるのは現地兵。そして、彼らの土地は疲弊するばかり。戦争の不条理を描いたこの作品は、シニカルでコミカル。特に、戦争が始まったとたんに軍人となる計算高いフォン・ビショップが戦争が終わるとインフルエンザであっけなく死んでしまうという結末は、なんとも痛烈な皮肉。2018/09/02
MATHILDA&LEON
21
【英ガーディアン紙が選ぶ必読小説82/1000】戦争の不条理さと虚しさをまざまざと見せつけられる一冊。登場する人々は徐々に不幸になっていき、仄暗い思いを抱く。第一次大戦のアフリカでは、本格的な戦いと言えるほどの戦争がなかったようで、戦争による被害者も戦死より病気や怪我によるものばかりであった事も虚しさを増幅させていく一因である。ちなみに物語は複数の人物による視点で描かれており、それぞれの心理描写が細かく丁寧に紡がれているのが魅力的だ。決して幸せでは無いのに、どこか滑稽とも思えるほどの描かれ方に魅了された。2025/08/03