内容説明
魔女の宴で有名なブロッケン山、皇帝の眠るキフホイザー山など、数々の「霊峰」を抱えるドイツ。かの地で不思議な存在感を放つ鉱山伝説の数々や、グリムの紹介でもおなじみの「ホレさま」・「リューベツァール」などの妖怪譚を題材に、山をめぐる伝説が近代へと生き延び、今なお語り継がれることの意味を多層的に問い直す意欲的論考。図版多数。
目次
第1部 鉱山(山霊と冥界;金のうんこ―鉱山の想像力;山の裁判)
第2部 妖怪(山姥ホレさま;“連続性”と伝説研究;悪魔リューベツァール;山霊と薬草)
著者等紹介
吉田孝夫[ヨシダタカオ]
1968年鳥取県生まれ。奈良女子大学文学部准教授。京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了(ドイツ語学ドイツ文学専修)。博士(文学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Majiska
2
西洋での薬草の利用に関して情報を集める中で手に取った一冊。主題はもちろん山と妖怪のほうにある。薬草についてはリューべツァールとの関連の中、後半で語られる。民話の源流、原点を探し出そうとするというよりかは、(そうした過去の試みにも詳しく触れながら)あくまでもそれらが各時代の人々にとってどのように発生(?)し、受容されたかに目を向ける内容。人々が妖怪にどのようなイメージを重ね、どのような役割を与えてきたか。その背景となる社会はどのようなものであったか……大変面白く、あっという間に読み終えてしまった。2020/01/10
月音
0
ドイツの山々に伝わる奇跡譚や妖怪話。本書はそれらの起源を探るものではない。中世から近代にわたる時代の社会状況に応じて、伝説の伝承者・享受者たちの間でどのように循環・変遷・理解をされてきたかを考察する。キリスト教以前の古層の宗教観、鉱山業の発展による貨幣社会の到来、人文主義の台頭、宗教改革、ナチズムなど。伝説に影響を及ぼしたものをあげれば、荒唐無稽な話も人間の思想と歴史を映し出す鏡のように思えた。多くの文献が資料に用いられる中で日本の説話とも比較され、山中他界観の類似が面白い。2023/01/08