内容説明
30年代の頽廃、ビートニクの先駆所は照りつける太陽と視界を奪う砂漠の塵が舞うロサンゼルス―ワラチを履いたメキシコ娘カミラ作家志望のイタリア系アルトゥーロ差別される者どうしの共感が恋に震え、疾駆し、うなり、転げる生80年の再刊で沸騰した名著の新訳。
著者等紹介
ファンテ,ジョン[ファンテ,ジョン] [Fante,John]
1909年、コロラド州デンバーにて、イタリア人移民家庭の長男として生まれる。1932年、文藝雑誌“The American Mercury”に短篇「ミサの侍者」を掲載し、商業誌にデビュー。以降、複数の雑誌で短篇の発表をつづける。1938年、初の長篇小説となるWait Until Spring,Bandini(『バンディーニ家よ、春を待て』栗原俊秀訳、未知谷、2015年)が刊行され好評を博す。小説の執筆のほか、ハリウッド映画やテレビ番組に脚本を提供することで生計を立てていた。1983年没
栗原俊秀[クリハラトシヒデ]
1983年生まれ。翻訳家。カルミネ・アバーテ『偉大なる時のモザイク』(未知谷)で、第2回須賀敦子翻訳賞、イタリア文化財文化活動省翻訳賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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buchipanda3
110
「だけど僕の口のなかにあるのは祈りではなく塵だった。祈るのはやめた」。アルトゥーロ・バンディーニ、愛すべき作家野郎。いや、まだ作家になれていない。あいつは只、生(き)のままの魂を抱えただけの若者。青臭くて誇りばかり高くて、路上に塵が舞う天使の街で夢ばかり見ている。情けない奴なんだ。バターミルク事件って何だ。そんなあいつがラブストーリーを得た。人生を得た。自分がほとばしる。彼女に忠実に?、そんな器用な真似はあいつには出来ない。でも心から彼女を求めた。自らを愛するように。そして叫んだ。あいつはもう作家だった。2024/01/15
ちゅんさん
48
とてもよかった。ファンテの作品は『犬と負け犬』、『満ちみてる生』に続き三作目。今のところ全部面白い。共通してるのは読みやすさとユーモア、そして登場人物のダメさだ。主人公アルトゥーロのこの愛すべきダメさは特に好きだ。後半はややシリアスになりどんどん彼の優しさが前面に出てきてこの小説の奥行きを感じた。ブコウスキーが激賛した序文も素晴らしく訳者解説も詳しくて理解の助けになるしファンテ愛を感じられる。一冊の本としての完成度が素晴らしい。文句なし今年のベスト!2024/12/29
フランソワーズ
9
ロサンゼルスに棲む、いささか自我肥大化して、創作に行き詰まったイタリア系アメリカ人アルトゥーロ。その彼がパブで働くメキシコ系アメリカ人カミラを溺愛する。でもただの恋愛小説ではない。そこで描かれる世界観が、まさにアメリカならではの退廃と冷めた狂気。ブコウスキーに激賞されたようだけど、本当に素晴らしい小説だ(ちなみにブコウスキーの小説は恥ずかしながら、読んだことがありません)。2024/08/02
樽
6
カネはなく、ダメ女に翻弄されまくる。まとまったカネが入っても、ふと気づくとなくなりかけている。短編一本しか採用されたことないのに、自分を大作家だと信じている。赤裸々なのに下品な感じがしないのは、酒やヤクに溺れてないからかな?2024/03/07
えっ
3
かっっこいい文章に痺れた。読書ってこれだよ!前半の倦んだ暮らしは可笑しみを感じさせつつ読んでいても辛いくらいの澱んだ雰囲気だったがカミラの車のシーン、ヴェラと出会い地震に遭う辺りからはもう止められず一気に読んだ。訳者あとがきの真剣さに泣いた。ブコウスキーにも触れてみたい。2025/01/12