内容説明
第二次世界大戦の勃発とほぼ同時に着手。戦火の中で執筆された『チェーホフの生涯』は作家の死後日の目を見た最初の作品でもある。ユダヤ人ではあるが出自はロシア生命の危機に直面したとき望郷の念に駆られるロシアそのものとして想起されたアントン・P.チェーホフのロシアの作家像。
著者等紹介
ネミロフスキー,イレーヌ[ネミロフスキー,イレーヌ] [N´emirovsky,Ir`ene]
1903~1942。ロシア帝国キエフ生まれ。革命時パリに亡命。1929年「ダヴィッド・ゴルデル」で文壇デビュー。大評判を呼び、アンリ・ド・レニエらから絶讃を浴びた。このデビュー作はジュリアン・デュヴィヴィエによって映画化、彼にとっての第一回トーキー作品でもある。34年、ナチスドイツの侵攻によりユダヤ人迫害が強まり、以降、危機の中で長篇小説を次々に執筆するも、42年にアウシュヴィッツ収容所にて死去。2004年、遺品から発見された未完の大作「フランス組曲」が刊行され、約40ヶ国で翻訳、世界中で大きな反響を巻き起こし、現在も旧作の再版や未発表作の刊行が続いている
芝盛行[シバモリユキ]
1950年生まれ。早稲田大学第一文学部卒(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
aika
42
作家チェーホフの物語であると同時に、青年アントンと共に生きた家族の物語でもあると感じました。正教の信仰を暴力的に無理強いする専制君主の父、堕落した兄、それに耐え続ける母と弟妹…一家の生活を両肩に背負い、日銭のために書き続けたチェーホフ。やがて時代の寵児となるものの、秘められた苦悩にここまで肉薄できたのは、革命で故郷ロシアを追われ、アウシュヴィッツで亡くなった著者の、決死の思いが滲んでいるからだと思います。農民を理想化する貴族出身のトルストイと、農奴の地をひく貧しいチェーホフの思想の差異は興味深かったです。2023/04/16
ふるい
13
「フランス語で書くロシア作家」ネミロフスキーは、WWⅡ勃発直後の極限状態のなか、作家チェーホフの生涯を、故国ロシアへの郷愁を込めながら真摯に描き出した。真面目で明るく、ユーモアのあるチェーホフは誰からも好かれていたが、心の片隅では常に孤独を感じていた。トルストイなどの偉大な作家が理想化した"農民"を、彼は物質的欠乏からくる悲劇的存在として作品に書いた。そもそも、チェーホフが作家になったのも頼りない父や兄に代わり家計を支えるためだった…。等身大の人間を書き続けたチェーホフを、好きにならずにはいられない評伝。2020/12/30
ポテンヒット
4
本のカバーは家族写真で、中央にチェーホフがいる。なかなかの男前。貧しい雑貨屋の家に生まれる。傲慢な父親や、文章や絵は得意だが生活はぱっとしない兄たちの中で奇跡的に素直に育つ。この父子関係がどことなく「カラマーゾフの兄弟」を思い起こさせる。あれは小説だし誇張して書いていると思っていたが、この当時のロシアのリアルな姿なのかもしれない。そんな家族のために医師として働きながら作品を書き続ける。名声を得ても、どこか薄幸そうで人生に諦めを感じている印象。「かもめ」は初演ではかなり不評だったことに驚いた。2021/02/04