内容説明
ハリウッドの脚本家だった30代の体験―白蟻に床を抜かれた家、頼った煉瓦積み工の父はイタリア移民第一世代らしくがさつで頑固、妻は出産前にカトリックへの改宗を望み、無信仰になっていた自分は幼い日の信仰へは戻れない…。父になる喜びと息子の立場を失う哀しみ、父母と妻、そして新しい命、それぞれの生を成熟したユーモアで包む生の讃歌、自ら脚色した映画も大成功した心温まる傑作。
著者等紹介
ファンテ,ジョン[ファンテ,ジョン] [Fante,John]
1909年、コロラド州デンバーにて、イタリア人移民家庭の長男として生まれる。1932年、文藝雑誌“The American Mercury”に短篇「ミサの侍者」を掲載し、商業誌にデビュー。小説の執筆のほか、ハリウッド映画やテレビ番組に脚本を提供することで生計を立てていた。1983年没。享年74歳
栗原俊秀[クリハラトシヒデ]
1983年生まれ。京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程を経て、イタリアに留学。カラブリア大学文学部専門課程近代文献学コース卒(Corso di laurea magistrale in Filologia Moderna)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちゅんさん
58
面白かった。このファンテの読みやすさ、少し笑えるドタバタ感は一見浅そうに見えて何故か深い余韻を残すから不思議。家族を書いているからなのかな。“子供はつねに、お前の苦しみの原因になるからな”とか“なぜなら僕は人生のくだらなさを、儚さを、愚かしさを愛していたから”などの印象的なセリフも最高でした。これを読むと結婚なんてするかと思ったり、やっぱりしたい!子供も欲しい!と思えたりしてとにかくいい小説だなぁと2021/06/03
nobi
53
75年程前のアメリカ西部の世界は、決まり事多かったり、夫と妻、親と子の関係も今と随分違って大変そう。特にイタリア移民の父親は何事も決めつけ癇癪持ち、でも汽車の中では人気者になったりする。母親はしょっちゅう気絶し話し出すと止まらない。妻は初めての子を身ごもりながら作業してしまう。そんなファンテ家の色濃い話に引き込まれていってしまう。カリフォルニアワインはふんだんにあり太った4匹の猫がいて父親の大工のセンスと腕は確か。ジョン・ファンテは信仰の喜びに浸ることはできなくとも新たな生への深い感動は父親と共にできる。2025/01/16
mincharos
37
江國さんが「物語のなかとそと」のあとがきで絶賛していた本。うーん、翻訳物はやっぱりちょっと苦手。面白くなかったわけじゃないけど、若干とっつきにくかった。でも男孫を異常なまでに欲する父と主人公の対立は面白く読めたし、列車の旅での父親の振る舞いによる周りの人たちの反応も、ほんと悪夢。最後の出産のシーンは私も自分の陣痛やあれこれの記憶が思い起こされて、じーーんとした。結婚するのも親になるのも、男性からしたらめんどくさいよねー。ちゃんと夫婦になるのも、ちゃんと親になるのも、それ相応に時間がかかるものなんだろうな。2018/05/31
ともっこ
22
著者の自伝風フィクション。 頑固でクセのある父と妻に振り回される主人公が気の毒で面白い。 文章はユーモアのある軽いタッチで読みやすい。 優しく愛に溢れた父親の鬱陶しさが微笑ましい。 夫婦の物語でもあり、父とこれから父になろうとする息子の物語でもある。 「僕の父の匂いを嗅いだ、僕の父の汗を嗅いだ、僕の生の起源を嗅いだ。父さんの暖かな涙を感じた、男の孤独を感じた、あらゆる男の優しさを感じた、痛みと哀しみにまみれた生の美しさを感じた。」 ここの文章が好き。2021/08/24
おおた
19
白蟻に家を食い荒らされて困ったので実家の親父に直してもらおうと連れてきたら、田舎の習慣を強情に通す親父さんに振り回され、あまつさえ現実主義者の嫁が敬虔なカソリックに改宗すると言い出したりでてんてこ舞いになるコント。結婚さいあくだな……。生物という種のサイクルをつないでいくためには、単にメシが食えれば済むわけではないというのがよく分かる。2017/02/04