内容説明
「今の世の中、嘘が多すぎる。俺は―嘘は嫌いだ!」盤岳の真面目さは非凡の弩級、善意故に挫折を貫いた聖なる日々を描く白井喬二の代表作。
著者等紹介
白井喬二[シライキョウジ]
明治22年9月1日横浜市に父井上孝道、母タミの長男として生まれ、義道と命名。官吏である父の転任に伴い府下青梅町で小学校入学、甲府市、浦和町、弘前市と移り、父母の郷里鳥取県米子町で中学校入学、四修の後受験勉強のため上京、早稲田から父の希望を容れ司法官となるべく日大政経科に移り卒業。在学中から大日本文学会の編集に携わり、機関誌『新文学』会員の作品添削も担当するなど文学との縁が切れず、卒業後『家庭之友』の編集主幹となる。男爵中島錫胤の嫡孫鶴子と結婚し化粧品本舗に入社、広告宣伝を担当。大正9年『講談雑誌』に「怪建築十二段返し」を発表、白井喬二誕生となる。娯楽雑誌は識者の手にすべからざる物という当時の風潮に反発し、純文学作品が元素を圧縮した錠剤とすれば、大衆文学はそれを溶解して作る水薬で、軌を一にする「娯楽雑誌愛すべし」と主張し、『改造』等高格雑誌には書かなかった。民衆のための新文学確立を目指し、二十一日会を結成し『大衆文芸』を発刊、平凡社の『大衆文学全集』に積極的に参画し大成功を治めるなど、実作者として数々の名作を残す一方、新興文学の啓蒙普及、向上のための運動家としても活躍
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感想・レビュー
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ニッポンの社長ケツそっくりおじさん・寺
58
これはお薦めである。時代小説の名作と言われる『富士に立つ影』を書いた白井喬二の連作。私は今、赤毛のアンやジャン・バルジャンと同じようにこの主人公・阿地川盤嶽が好きである。十数年前にフジテレビで役所広司主演でドラマ化していたので御記憶の方もあるだろう。連作ながら、昨今流行りの書き下ろし時代小説のように謎解きや捕物もしないし、悪のラスボスもいない。嘘や不正の嫌いな若侍・盤嶽が現実と格闘する話である。「現実とは、君を傷付けようとする力の事」と言ったのは先日亡くなった橋本治だが、この物語は……(レビュー続く)2019/02/22
NICK6
6
粋な貧乏剣士の活躍。不正が露見したら、怒り極端に全面でていた前半が、悪や偽りに幾度も対峙して態度軟化、少しづつ、心に落ち着き静寂のこころが学習され、ことばに説得力や調停力が備わってくる。ただ、正邪基準の中心は、とても純粋な心の統一感であり、愚劣な妥協は皆無、敵中目前、一触即発でも、ぶれない信条は幼児のように清純潔白、それゆえの悩みも純粋すぎて一進一退。流れがどこまでも喜劇的基調ですすむ要因でもある。だからチャンバラ少な目でも粋。惚れる女も次から次。嬉恥ずかしの軽快なやり取り、読んでて楽しくてしょうがない 2022/06/11