目次
1(鳥の影;天空;刃と葉脈 ほか)
2(鳥の宴;鉄扉;問ひ ほか)
3(みぞれ;小窓;藤と眠り ほか)
著者等紹介
小原奈実[オバラナミ]
1991年東京生まれ。第五十六回角川短歌賞次席。東京大学本郷短歌会(現在は解散)、同人誌「穀物」などに参加(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ゆう
11
素通りしていた鳥や風などの自然の美しさを丁寧に拾ったり、生死を、生を奪う己の手を真摯に見つめていたりと、誠実な人柄があらわれたような歌が多かった。偏見だが、よく晴れた地域で詠まれたのだろうというような天気のよさ、爽やかさだった。雨の歌は2首だけだった気がする。 一番誠実さがあらわれていたのは「手には手にて応(いら)ふほかなし水辺(すいへん)のその水ほどに在りたかりしを」(鉄扉91頁)水辺の水が川岸から水中にさしこまれた草に応えていくように、相手に自分の手だけでなく存在全体で応えたいのにできないもどかしさ。2025/05/10
双海(ふたみ)
8
著者は1991年生まれ。本郷短歌会に在籍しており、第56回角川短歌賞で次席となっている。本書は2008年の10代、20代、2021年まで製作した304首を収録。文語短歌のよさを改めて実感した。「読み終へし手紙ふたたび畳む夜ひとの折りたる折り目のままに」2025/06/22
門哉 彗遙
7
読み終えれば付箋だらけの歌集になってしまった。 一番かっこいいと思った歌は 「請ふならば灯を、 黙しあふための夜を ふるき鉄扉のやうなひとりに」だ。この「ひとり」は誰なんだろう。ご自分のことだろうか。凛としている。 そして 「枝しなふ柘榴へと手を伸ぶるときわが手は加速してわれを牽く」 「身の芯を引き抜くごとき飛びやうの抜ききつて死ぬ蜻蛉のあらむ」 この2首は、サイボーグ009のジョーが奥歯の加速スイッチを入れてしか見えない景色ではないか(知らんけど)。2025/05/19
yumicomachi
5
1991年生まれ、第56回角川短歌賞次席歌人の第一歌集。文語旧仮名遣いの端正な文体が貫かれており、鳥や植物の歌が多い。というと穏やかな作品世界が想像されるかもしれないが、決してそれだけではない深さと緊張感がある。主体は医学を学び医師であるようだ。【いづこかの金木犀のひろがりの果てとしてわれあり 風そよぐ】【ほんたうにこの世は五月さへづりのそれぞれに聴く梢のたかさ】【星を聴く器官をたれももたざるに解剖なれば脳切りつくす】【ことばにて墓建てつげばおのれにはより美しき墓欲りやまず】等304首。2025年2月刊。2025/06/22
rinakko
4
〈抱き来し本に移れる身の熱を贄(にへ)のごとくに書庫へ返せり〉〈脳に思惟ともるごとくに藍さしてふかみて褪せしのちもあぢさゐ〉〈星を聴く器官をたれももたざるに解剖なれば脳切りつくす〉〈あやまちを卵のごとくならべゐる卓よ夜ふけて傾ぎはじめぬ〉〈にはたづみまぶしく澄めり風に身を消さむなどとふゆめあきらめよ〉〈眠りなさい かくばかり世を見つめては眼から椿になつてしまふよ〉〈駿足のごとくレモンの香りたち闇のふかみへ闇退(すさ)りたり〉〈みづからを送らむ舟を彫りいだす鑿(のみ)ありて鋭(と)く時を彫らむよ〉2025/03/23