内容説明
ここに集めたみごとな刺しゅう画は、ポーランドにおけるホロコーストを生き抜いたエスター・クリニッツの驚くべき体験を再現している。15歳の彼女は、13歳の妹とともに、家族と別れ、身を隠した。友、隣人の家を追われ、森の奥に逃げた。行き場をなくしたふたりは、カトリック教徒として農家で働き、大戦の嵐吹き荒れる数年を、恐れおののきながら生きた。やがて終戦。ふたりを待っていたのはつらい現実だった。エスターと妹は生き延びたが、ふたりの両親、兄、妹たち、そして何百万人ものユダヤ人が死んでいた。エスターは、絵の勉強をしたことはなかった。しかし、50歳のとき、あの体験を刺しゅうによって再現しようと思いたつ。素朴でありながら精緻をきわめるこれらの刺しゅう画は、身の毛もよだつ戦争の恐ろしさを語り、戦争開始以前にあった家族との平和な暮らしの懐かしい場面を語る。エスター自身の言葉に彼女の娘バニース・スタインハートの説明がそえられている。本書は、けっして忘れてはならないひとつの時代と出来事を振り返るための、心に残る1冊である。
目次
ポーランドのわが家
トゥチン川
兄のルーヴェン
五旬節
新年祭
過越しの祭
ナチスが村に来た日
軍用道路
歯が痛くて
ゴシチェラドゥフ〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
帽子を編みます
41
題名は、ポーランドのホロコーストを生き抜いた母から娘への思いでした。刺繍、アップリケで描かれた刺繍画。農村の家族での風景、ユダヤの行事、ナチスがやって来て…。彼女は生き抜いて、アメリカに移住し、自分の経験を娘に語ります。そして、文章を縫い取り、刺繍をして残します。私も刺繍をしますが、時間がかかる作業です。刺しながら思い返し、一枚ずつ完成させていったのでしょう。私は、この本を眺めながら、彼女の人生を思います。彼女の両親、兄弟、失われた人々のことも思います。この本がこれからも多くの人の手に取られますように。2020/10/30
Shoko
33
図書館本。ユダヤ人の少女エスターが勇気と知恵をもって、残虐なナチスの手を逃れ、必死に生き抜く。その様子が、非常に精緻で、見る者を惹きつけてやまない美しい刺繍画で表されている。エスター自身が50歳になってから作り始めたものだ。「ホロコーストを人類が忘れることがあってはならない」。思いを込めて作られた刺繍画は娘が文章を加え、絵本になった。先日、「帰ってきたヒトラー」を観て、「人間は忘れる生き物だ」ということを痛感したところでした。忘れてはいけない記憶が詰まっている、多くの人に手に取ってもらいたい絵本です。2021/01/05
スプーン
31
ユダヤ人迫害の戦争体験を刺繍画であらわした一冊。 どんな思いで、ひと針ひと針縫ったのかと思うとやるせなくなります。 正義の戦争なんてありません。戦争はすべて悪です。2020/11/06
ochatomo
17
アメリカの自伝絵本 1927年生まれのユダヤ人の少女がポーランドで体験したこと(1937年~)を晩年に刺繍で記録に残す 美しく重たい 「きれいな絵なんかなかった」を思い返す 原題“Memories of survival” 元本2006年 2007刊2020/12/18
カラスノエンドウ
17
なんでこの良本が書庫に埋もれているんだ、と思う事が度々あります。この本もそう。見事な刺繍が物語るのは、ポーランドでのユダヤ人の生活。それは迫害の日々に変わります。自然や風景の手芸がとても美しくて、文章との対比に胸が詰まりました。作者は機転と勇気で生き延び、暗い過去を針と糸で綴りました。それは語り継がれるべき記憶でした。2020/08/10